ハイレゾの特性を生かしたサウンドとヴォーカルによる、和めるアコースティック・ポップス。

『THE IDOLM@STER』の如月千早役、『STEINS;GATE』の牧瀬紅莉栖役でもおなじみの声優、今井麻美。アーティストとしても、多くのシングルとアルバムをリリースしており、ライブ活動も盛んに行なっている。

『little legacy』は、アコースティックサウンドによるセルフカヴァーを収めた5枚目のアルバムとなる。ライブやシングルでもアコースティックによるサウンドを披露している今井麻美だが、より洗練された最終系とも呼べるアレンジで仕上げている。

今作は96kHz/24bit環境でレコーデイングされており、ハイレゾ配信を見越した制作となっている。プロデューサーである濱田智之の徹底した音へのこだわりが感じられ、生楽器のリアルさやスタジオの空気感など、ハイレゾならではの高品位な音の響きを味わうことができる。

「little legacy」

アルバムのコンセプトに合わせて書き下ろされた新曲で、作詞は今井麻美によるもの。作曲はバンダイナムコのゲームミュージックや、TVアニメ『GOD EATER』『Dimension W』の音楽を担当する椎名豪。編曲は『仮面ティーチャー』『SHARK』などTVドラマ音楽が多数手がけている牧戸太郎。

ハイレゾでは、視界が広がるような開放感を感じられる。音の輪郭はくっきりとしているが空気感は柔らかく、余裕のある空間で音が躍動する様子が手に取れるようだ。解像感の高さによりそれぞれの音が被らずに把握できて、活き活きと鳴るさまが鮮やかに伝わってくる。

歌声は明るく自然体。やや低めの入り口から、高めのサビ部分までヴォーカルがよく伸びているのがわかる。ラストに向かう前の音数が少なくなりヴォーカルメインになる箇所では、声の響きに奥行きの深さが感じられる。ゲーム音楽や同人音楽でもよく知られる柳麻美（「紅蓮の弓矢」を収めたLinked Horizonのシングル『自由への進撃』に収録されている「もしこの壁の中が一軒の家だとしたら」のヴォーカルは彼女）のコーラスも淡く美しい。

「Strawberry ～甘く切ない涙～ – Frais richesse ver. -」

初出はTVアニメ『にゃんこい！』のEDテーマ。爽やかなポップスをスローダウンし、軽やかなアコースティックサウンドにまとめている。「Frais richesse（フレイズ・リシェス）」とはブレンドしたイチゴにシャンパンを注いで作るカクテルの名前で、こんなところからもこのカヴァーのイメージが伝わってくる。

ハイレゾではすっきりとした質感で中高域が充実しており、煌くウィンドチャイムやよく伸びるヴィオリンの音色も美しい。木漏れ日があふれる白い部屋に涼風がすっと吹き込んでいるような心地好さを感じる。秘めた想いをそのままに表わしていたヴォーカルはよりたおやかに、随所に表れるニュアンスのつけ方には余裕さえも感じられる。

ヴォーカルは囁きかけるように目の前に位置し、その吐息が伝わってくるよう。ちょっと引いた抑揚でさりげなく甘さを漂わせる、今井麻美の表現力の豊かさがうかがえる。

「想いの羽根～Angelic White～ – Siesta ver. -」

今作のプロデューサーである濱田智之作曲によるナンバー。原曲は、今作にもピアノ・バラッドヴァージョンで収録されている「遠雷」のカップリングとして収録されている。編曲は「Strawberry ～甘く切ない涙～ – Frais richesse ver. -」と同じくジャズ・プレイも得意なギタリスト・中村天佑。流麗なストリングスとこみ上げるドラマチックな展開を持つ原曲を“Siesta（シエスタ、午睡）”風に、ちょっとまどろむような雰囲気で描き出す。

ハイレゾでは、親密な距離感が声と楽器の間に感じられる。アコースティックギターの優しい調べ、ピアノの軽やかなタッチ、穏やかに響くパーカション。やくしまるえつこ、蓮沼執太、ももいろクローバーZ、図書館などの作品に参加している宮地夏海のフルートも、歌声にそっと寄り添うように柔らかな音色で奏でられている。

ヴォーカルはいつもよりちょっと低めの歌声で落ち着いたイメージを醸し出し、あえて抑えた声量の中で巧みにニュアンスを表現している。ラスト前の“煌く風が包んでくれる”の部分は繊細さが印象的だ。

ハイレゾの特性が充分に発揮されたアルバムであり、今井麻美ファンならずとも素直に楽しめる内容となっている。いつも陽気でテンション高めな“ミンゴス”のイメージとは一線を画す、ヴォーカリスト・今井麻美の表現力の高さを実感できる作品だ。