INTERVIEW
2016.10.07
──「差がすぐにわかる程に聴き込んだ曲」を持たない人が、手っ取り早くハイレゾの良さを理解するにはどういった楽曲を聴くのが適しているのでしょうか?
佐藤 音の良さを感じやすいのは、生楽器を使っている楽曲ですね。生楽器には豊かな表現力があるので、その分届きやすくなると思います。なので、まずアニメのサウンドトラックを聴きましょう。ランティスに限らず、各社サウンドトラックにはすごく力を入れています。作曲家やプロデューサーやディレクターの、こだわりや腕の見せどころでもありますからね。好きな作品のサウンドトラックで、耳馴染んだメインテーマを聴いてもらいたいです。
──テレビで聴くBGMとの差はかなり大きいのでしょうか。
佐藤 例えば、TVで鳴っている音源は圧縮された16bit/48kHzなんですよ。それがテレビ付属の小さなスピーカーから出ている。そこからハイレゾ音源で24bit/96kHzに変わって、イヤホンという耳に近い所で出力できる環境で聴く、という聴き比べになりますね。好きなアニメなら「あのシーンが思い出される」という思い入れもあると思うので、第一歩の「音の違いってあるの?」という疑問を解決するにはハイレゾのサウンドトラックがオススメです。
──たしかにボーカルが乗っていると、そちらに耳が行きがちですしね。
佐藤 とはいえ、ボーカルもハイレゾになって良いなと思ったことがありますよ。違いが分かりやすいのは、『ラブライブ!』のような人数の多いものですね。「CDでは持ってたけど、ハイレゾ版も買ってみるか」と思ったときには、例えばKalafinaさんのような複数人数の歌モノを聴いてみてもらいたいです。CDの解像度と手に入りやすいイヤホンの組み合わせだと、歌が同じメロディをユニゾンしていたら塊の歌として聴こえるんですよ。でもこだわって作られたハイレゾ音源ではただ塊ではなく、ひとりずつの個性がちゃんと別れたうえでの塊になっているんです。なので僕は、μ’sで「真姫ちゃんの声が右斜め上にある」というところまでわかるような繊細さで作っています。「意識すればそれぞれの声を聴き分けることができる」というのが、ハイレゾの良いところですね。「9人がユニゾンで歌っていても、その内のひとりの歌だけを耳で追いかけられる」のは、ハイレゾの解像度が高くて滲んでいないからです。そういう聴き比べをしていただくと、手っ取り早く違いがわかると思います。
──つまり、「愛があればわかる」と。
佐藤 そうそう、「キャラが誰」「声優さんが誰」とか。本当に、思い入れによる部分はすごく大きいと思います。
──「真姫ちゃんの声だけを追えるんだよ!」と言われたら、ファンは買わざるを得ないじゃないですか(笑)。
佐藤 ぜひ買ってください(笑)。作っている人間ですから9人ずつそれぞれに思い入れはあるので、ていねいに作った結果、ユーザーに喜んでいただけたという手応えは感じています。
──「これを買え!」とは言いにくいとは思いますが、初心者に推奨される再生環境はありますか?
佐藤 難しいですね……手軽にですよね。どこそこのメーカーの、と言ってしまうとそれはそれで問題がありますし……。お安く抑えると言っても、やっぱり再生機器とイヤホン合わせて10万円くらいはかけてほしいなあ~!理想を言えば(笑)。でもiPhoneに接続するタイプのコンバーターもありますし、聴く方法はいくらでもあるんですよ。だから良い音を体験したい時に、順番として一番初めに手を出してほしいのはイヤホンですね。その次にプレーヤーだと思います。
──自分の気に入ったイヤホンを手に入れて、その上で本体を買い替えていくようになるんですかね。
佐藤 そうですね。それが自分の中での基準になるので、「前より良い」が体験できるようになるというのはあります。本当にこの沼というのは……もう間違いなく沼なんでけど(笑)。沼のすごさとして、「経験が塗り替えられていくことによる快感」があると思うんです。そして元に戻れない。一度良いものを体験すると、もっと上が知りたくなる。なので、いきなり100万円から始めると、実はあんまり面白くないんですよね。それはゴールじゃないんです。1万円のイヤホンから始まって、3万円になって、もっと良いものをと思うと「カスタムって何!?」「自分の耳型取れるの!?」となって10万円……と、段階を追って音の違いを体感することでオーディオ・ファンになるんです。「音の良さ」というより、「自分がいかにこっちの音の方が好きか」ということをわかっていくんですよ。それが快感になるんです。なので、「いきなり高いものを買う」は、僕はあまりオススメできないですね。最初から「20万円で良いものを買うんです」という人には、「ちょっと待った方が……」と言うと思います(笑)。「ひとまずいちばん安いプレーヤーとちょっと良いイヤホンで、10万円くらいから始めてみない?」という感じですね。
──安価なものから始めていくと、トータルではお金がかかるかもしれませんね(笑)。
佐藤 はい、最後にいちばんお金がかかるパターンです(笑)。でもやっぱり良い音で音楽を聴くことの楽しさに気付いたら、大袈裟かもしれませんが日々人生が楽しいと思うんです。僕はいろんな良い音が聴けると楽しいし、幸せな気分になれます。それがまた新しいものを作らなきゃという糧にもなっているので、理屈じゃなくてまずは体感してほしいですね。体感さえすれば良さが分かるし、良さが分かればCDの良いところも悪いところもわかってきます。そうやって音楽を好きになってもらえれば。ハイレゾの普及がゴールではなくて、それをきっかけに音楽が好きなユーザーが増えてくれるのが最終的な目標ですよね。
(Vol.3に続く)
●教えて純之介さん!Lantis音楽プロデューサー佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」Vol.3はこちら
ハイレゾについての様々な試みや音楽と映像の関係など、さらに一歩踏み込んだ話が盛りだくさんです。
佐藤純之介
1975年大阪生まれ。YMOに憧れ90年代後期よりテレビや演
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