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INTERVIEW

2017.08.02

『らき☆すた』歌のベスト 〜アニメ放送10周年記念盤〜 神前 暁 インタビュー

「もってけ!セーラーふく」の特異性とは

───ジャンル分けをして「このジャンルが好きなら、この曲を」というオススメがわかりやすいのですが、まず「もってけ!セーラーふく」を区分するのが難しいですね。

TVアニメ『らき☆すた』OPテーマ
泉こなた( CV.平野 綾), 柊かがみ( CV.加藤英美里), 柊つかさ( CV.福原香織), 高良みゆき( CV.遠藤 綾)「もってけ!セーラーふく」
作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:神前 暁

神前 あれはなんでしょうね、ミクスチャーかなあ。ちょっとよくわからない(笑)。

───確かにキメラ感がありますよね。色んなジャンルのエッセンスはあるものの、結局なんと呼ばれるものなのか謎ではあります。

神前 そうなんですよ。「もってけ!セーラーふく」はたしかにものすごくヒットして、アニソン業界に影響はあったと思うんです。でもあまりに異質がゆえに、「もってけ!セーラーふく」が正統進化したジャンルが存在しないんですよ。進化の行き詰まりにあったような曲なんです(笑)。これが例えば『魔法先生ネギま!』の「ハッピー☆マテリアル」なら、「ハレ晴レユカイ」につながっているのが見えるんですけど、「もってけ!セーラーふく」のあとは見えない……。

───ちなみに、ご自身で進化させるご予定は?

神前 いやあ、ないですし無理でしょうね。それくらい特殊なところに迷い込んだ、ゆえに面白かった曲です。

───なぜそんな進化の極北に突然辿り着いたかは覚えてらっしゃいますか?

神前 ひとつは、いろいろな人の手が入っているということがあります。例えば僕のデモに対する畑(亜貴)さんのラップのアプローチはあまりにも独特ですし、ディレクターさんが現場の判断で僕のデモのバッキングで鳴っていたシンセをメロディーとして採用したり。そういうアドリブ的な曲作りだったので、アイデアの量が多いですよね。

───複数の人のアイデアがつながって曲ができているんですね。

神前 そうですね。それに対して僕もエフェクトを全体にかけるようなことをしたり。今だと結構ありますけど、当時あんまり2MIXで切り刻むようなアプローチはなかったことなので、調子に乗った感じがありますよね(笑)。部分的にだと「かわいいラップ」という要素は引き継がれていると思います。『化物語』の「恋愛サーキュレーション」とか、今もたまにラップの曲を作ることがありますね。

───ヒップホップではなく別ジャンルの中でラップをやるというのは、この辺りから始まったムーブメントのような感じはしますね。

神前 音楽業界としてはミクスチャー・ロックが「ロックに対してラップ」というアプローチはやっていたんですけど、それに「かわいい」をプラスしたのは珍しかったんじゃないかと思います。

多彩な『らき☆すた』楽曲を構成する「らしさ」のポイント

───『らき☆すた』で培われたもので、ご自身だけでなくMONACAの後輩たちに引き継がれているものはあると思われますか?

神前 MONACAには萌え系やギャグ系の作品の依頼が多いので、「コミカルな劇伴」というのがうちの作風だと思うんです。そのときのアプローチの仕方は、僕がやることに似ているものはありますね。楽器使いや、どんなジャンルを持ってきてそのシーンに当てるかという引用の仕方ですね。根本的に僕と趣味が近い若い子も多くて、同じ方向を向いている人たちなので、おのずとそこは色が近くなると思います。

───具体的にどんなサウンドがMONACA的だと思われますか?

神前 歌モノだとブラック・ミュージックのリズムと、ブリティッシュ・ロック的なコード感、そこに歌謡曲のメロディー。というのはMONACAの作家が共通して持っている感覚かもしれません。逆に尖った格好いい感じは苦手かもしれません。Elements GardenさんやF.M.Fさんには敵わないなあと(笑)。でもそういう棲み分けってあると思うんですよ。発注する側も時と場合で作家を変えるでしょうし、作っている人たちにも自分の得手不得手の認識はあると思います。

───神前さんが元々持っている趣向に近い楽曲は、どの曲になるのでしょうか。

神前 「曖昧ネットだーりん」は学生時代に聴いていたアース・ウィンド&ファイアとか、タワー・オブ・パワーとか、そういう音楽に近いですね。逆に演歌は聴いていませんでしたけど、やってみると面白いんですよ。

───演歌のような聴いたことのないジャンルを発注された場合、楽曲はどのように作っていくものなのでしょうか?

神前 やっぱりいっぱい聴いて、エッセンスを抽出するところからですね。どのジャンルでもそうなんですけど、「ここを外すと演歌じゃなくなる」というポイントがあるんですよ。少しずついろんな曲からヒントを得て、それを合体させるというイメージです。

TVアニメ『らき☆すた』挿入歌
小神あきら( CV.今野宏美) 「三十路岬」
作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:神前 暁

───『らき☆すた』には演歌の他にも戦隊モノ風の楽曲があったり、ジャンルがあまりにも多岐に渡っていますよね。

神前 戦隊モノは聴いてはいましたけど、作る側になることはあまりないですよね。とはいえ僕は半分劇伴作家なので、歌モノをやるときのアプローチとしても自分の中にあるアーティスト性を出すというより「求められたオーダーに対してベストなものを作る」というスタンスなんですよ。

───歌モノだけでも20曲を超える曲数を作られていますが、各曲ごとのジャンルの指定などはあったのでしょうか?

神前 主にディレクターさんから「今回はこういうことをやりたい」という指定はありましたね。アイデアが泉のように湧いてくる方なので。なかでもやっぱり演歌は難しかったです。それと白石シリーズは古いサウンド感のものが多くて、基本的にムード歌謡なんですよ。演歌やムード歌謡のような古い音楽は、音源を発掘して正しく解釈しないといけないので勉強になりました。

───歴史のあるものほど「らしさ」のポイントが固定されていますからね。

神前 そうなんですよ。ちょっとズレただけでその音楽のおいしいところを外してしまうので、それは気をつけました。『らき☆すた』楽曲はパロディーもいっぱいありましたしね。

───逆にパロディー要素のないキャラソン「幸せ願う彼方から」などの制作はいかがでしたか?

キャラクターソング Vol.011
歌:泉かなた(島本須美)「幸せ願う彼方から」
作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:神前 暁

神前 あれは元々劇伴ですからね。劇中ではサビのメロディーしかないんですよ。それを歌にしたいと言われて、なかなか困った記憶があります。歌も島本須美さんですし、シチュエーション的にも名曲然としているべきですし。でもとてもうまくいって、すごくよくできた曲になったなと思っています。あと、キャラソンだと「みんなで5じぴったん」とかもよくわからないんですけど……。たぶんこれ、タイトル的には「(ふたりの)もじぴったん」のもじりだと思うんですけど、曲的には完全にアンダーワールドなんですよ(笑)。なんでこうなったのか、もはやまったくわからない。

───タイトルだけ見たら神前さんの過去作のパロディーかと思いきや、曲調はまったく異なるという(笑)。胸ぺったんガールズ(泉こなた&小早川ゆたか&岩崎みなみ)のキャラソンは2曲ともちょっとおかしいですよね。

キャラクターソング Vol.010 胸ぺったんガールズ
泉こなた( CV.平野 綾), 小早川ゆたか( CV.長谷川静香), 岩崎みなみ( CV.茅原実里)
「みんなで5じぴったん」
「ロリィタ帝国ビショージョ大帝」を収録
作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:神前 暁

神前 「ロリィタ帝国ビショージョ大帝」もやたら尖ってますし……。この間、畑さんとCDブックレット用の鼎談をしたときにも話したんですけど、やっぱり一種の躁状態だったんだと思います。

───スケジュールの都合上、後半の曲になるにつれて制作の記憶が薄れていく感じですかね。

神前 そうですね。後半だとm.o.e.vの「Gravity」もねえ。「m.o.v.eみたいにしたい」という身も蓋もない指定をいただきました(笑)。

らき☆すた ミュージックフェア
歌:m.o.e.v「Gravity」
作詞・作曲・編曲:神前 暁
歌:小神あきら(今野宏美)「三十路坂」
作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:神前 暁
などを収録

───アニメ自体がパロディー満載の内容でしたからね(笑)。

神前 そうなんですよ。作品がそういう作品なので。絵柄まで『頭文字[イニシャル]D 』みたいになっちゃって……(笑)。でも後々に本家のm.o.v.eさんにカバーしていただいたんですよ(m.o.v.eの『anim.o.v.e 01』に収録)。それに当時は歌手のクレジットを出していなかったんですけど、実はボーカルがKazcoさんと富永TOMMY弘明さんという、これまた豪華な面子なんですよ。そういうネタを本気でやるという面白さはありましたね。

───当時のレコーディング現場で印象的な出来事などはありますか?

神前 「三十路坂」で尺八を録ったんですよ。これがまず「奏者の方にお渡しするのが五線譜でいいのか」と(笑)。そういう初めてだからこその問題が起きたのを覚えています。ちゃんと五線譜で吹いてくださいましたけどね。白石くん関係も意外と生が多くて、弦楽器、管楽器、ギター、ベースは生で録っていましたね。

───白石さんの楽曲は音楽ジャンルがレトロな分、打ち込みでは成立しにくいのかもしれませんね。

神前 打ち込みでやると、すごくフェイクっぽくなってしまうんです。ネタだからこそ本物っぽくしないと笑いにならないんですよね。逆に「最大聖地カーニバル」はジャンル的にはサンバなんですけど、リズムは完全にハウスですから。ギターは生ですけど他のパートは打ち込みで……あっ、思いだした!これに自分で吹いたサンバホイッスルを入れたんですよ。初めてレコーディングで吹いたんですけど、意外とよかった(笑)。

キャラクターソング Vol.008 パトリシア・マーティン(ささきのぞみ)
「最大聖地カーニバル」を収録
作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:神前 暁

───それはプロが見つからなくて、仕方なくということだったんですか?

神前 いえ。「やってみよう」と思って、買ってきて吹いたんです。そのときは斎藤 滋さんがディレクションをしてくれていて、「僕吹きますよ」って吹いたら「そんなにガチで吹くとは思わなかった」と言われました(笑)。もっとピーって簡単に吹くだけかと思ったら、ちゃんと音階を吹き分けてすっごいガチで吹いたので。楽しかったですね。……段々いろいろと思いだしてきました。大変だったのは組曲「らき☆すた動画」で、これは15分以上あってやれどやれど終わらなかった(笑)。「資料ください」と言ったら、何十曲分ものマルチのデータがまるっと送られてきたんですよ。DVDで何十枚もありました。それを全部取り込んで、どうやってつなごうかなあというパズルでしたね。

らき☆すたRe-Mix002~『ラキスタノキワミ、アッー』【してやんよ】~
歌:らき☆すたのみんな 組曲「らき☆すた動画」を収録
作詞:畑 亜貴 作曲:神前 暁、nishi-ken、白石 稔、綾原圭二、とものかつみ、菊谷知樹、田代智一、金井江右 編曲:神前 暁

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