TVアニメ『結城友奈は勇者である -鷲尾須美の章-/-勇者の章-』音楽担当・岡部啓一(MONACA)インタビュー

世界を守る「勇者」という宿命を背負った少女たちの、微笑ましい日常とその裏にある過酷な世界を描いて大きな話題を呼んだアニメ『結城友奈は勇者である』(以下、『ゆゆゆ』)。その前日譚にあたる劇場作品『結城友奈は勇者である -鷲尾須美の章-』と、続編となる完全新作『結城友奈は勇者である -勇者の章-』が、この10月よりTVアニメとして放送されている。それら『ゆゆゆ』シリーズの独特の世界観を支える劇伴および主題歌を手がけているのが、サウンドクリエイター集団・MONACAの代表である岡部啓一。今回は『ゆゆゆ』の音楽の独自性とそのコンセプトについて、彼に話を訊いた。

――岡部さんは2014年に放送されたアニメ第1期から音楽を担当されてますが、まず『結城友奈は勇者である』という作品全体の劇伴のコンセプトを教えてください。

岡部啓一 もともと『ゆゆゆ』のプロジェクトにお声がけいただいた理由が、僕が手がけた「ニーア ゲシュタルト」と「ニーア レプリカント」(共に2010年の作品)というゲームのサウンドトラックを聴かれてとのことだったので、「ニーア」のように非現実的で無国籍的な世界観が求められてる心積もりで最初の打ち合わせに行ったんですよ。それで実際に『ゆゆゆ』についてお伺いすると、日常的な側面と非現実的な側面の両方がある作品ということがわかりまして、監督ともお話して日常パートは日常アニメっぽい音楽、樹海化したシーンではミステリアスで神秘的な感じの音楽という風に分けて作ることにしたんです。

――「ニーア」シリーズのサントラがきっかけとしてあったんですね。

岡部 最初は「ニーア」っぽいイメージというお話をいただいたんですけど、もちろん『ゆゆゆ』オリジナルのカラーがあるべきだと思ったので、そこで和のテイストとバーテックスの不気味さ、それとメインキャラクターのバトルするけど可憐な感じを意識して作らせていただきました。

――その他に先方から具体的に提示されたオーダーはありましたか?

岡部 なんとなくの雰囲気としてはお伝えいただきましたけど、具体的にこの曲みたいなお話はなかったですね。ただ、ある意味テーマ的な役割をするメインの日常曲と同じモチーフで、それと対になるようなバトル曲を作ってほしいというお話をいただきまして、それは意外と苦労しました(苦笑)。同じメロディーで静かなものと激しいものを作ることはよくあるんですけど、日常曲の穏やかで牧歌的なものと、バトル曲の激しくて悲しい感じを同じメロディーで共有させるのは難しくて。アレンジを速くしたり激しくするだけでは補えない部分があるんですよ。

――モチーフを共有することで地続きの世界観であることがを表現されたんですね。それと『ゆゆゆ』の劇伴は民族音楽や宗教音楽を思わせる要素が特徴的ですが、サウンド的にモチーフにしたものはありますか?

岡部 「ニーア」にもそういうテイストがあったんですけど、そっちは比較的ヨーロッパの民族音楽らしい方向性だったんです。なので『ゆゆゆ』は同じ民族音楽っぽさのなかでも、日本を中心としたアジアっぽい雰囲気に限定したほうがいいなと思って。ただ、僕は日本人なのでどういう楽器や音階を使えば日本っぽさが出るかはわかるんですけど、それをそのまま本物っぽくやるよりかは、ひと昔前の欧米の人が思う日本感というか、中国の文化とかが混ざってなんとなくフワフワしてるアジアっぽいテイストになるよう意識しました。そこの幅を広域にすることでオリジナリティーが出ると思ったんです。

――たしかにガムランのようなサウンドも導入されていて、オリエンタル感が強い印象を受けました。ちなみに岡部さんは『ゆゆゆ』という作品にどのような印象を持ちましたか?

岡部 最初にキャラクターデザインを拝見したときはアニメっぽい可愛らしいデザインで、「ニーア」のシリアスな方向性とは違っていたので「何をどう求められてるのかな?」と思ったんですけど、脚本を読ませていただくと、彼女たちの使命を背負わされてる感じや、ただ残酷なだけでなく、その中に友だちを思う希望感や切なさがあることがわかったんです。彼女たちの清らかな部分と物語の禍々しさの狭間にあるような切なさが、『ゆゆゆ』を音楽で表現する上で大切な部分だと感じました。

――TVアニメ第1期の段階でそういったコンセプトを組み立てられたわけですが、それを踏まえて今年に劇場公開された前日譚『鷲尾須美の章』と、今回テレビ放送されている続編『勇者の章』ではどのような音楽を作ろうとされたのでしょうか?

岡部 基本的に『ゆゆゆ』の世界観はユーザーさんにある程度認識してもらってると思うので、そこは崩さないようにしました。なので新作だからといって何か新しいテイストを入れるようなことはあまりやってないんです。もともとある世界観をより広げていったり、曲のバリエーションを増やしていく感覚ですね。ただ、1期のアニメは最終的にはハッピーエンドで終わりますけど、『鷲尾須美の章』は最後も本当に悲しい終わり方をするので、音楽もより悲しい方向になっていると思います。『勇者の章』に関しては、これまで作ってきた劇伴を使っていただくというお話だったので、そこに新規の曲を使いたいというお話をいただいたシーンの楽曲を新しく作って足した感じですね。

――その『勇者の章』用の追加曲のなかには、ラスボスの登場をイメージさせるような緊迫感のある曲もありますね。

岡部 アニメの第1期の劇伴にも、神樹さまに守られてる世界の外を見て絶望感を感じる時に流れる曲が、ラスボス感のあるドーンとした感じなんですけど、それと比較すると得体の知れない不気味さという方向性で作った曲ですね。オーダー自体も音色を含めて得体の知れない禍々しい感じにということだったので、音階もわらべ歌みたいな日本っぽいスケール感を入れて、オリエンタル感のある不気味さを出したつもりです。

――『鷲尾須美の章』と『勇者の章』の劇伴には、岡部さんを中心に帆足圭吾さん、高橋邦幸さん、瀬尾祥太郎さんというMONACAの作家陣が参加されてますが、どのように作業されたのですか?

岡部 今回の『ゆゆゆ』のシリーズもそうなんですけど、僕らが作業するときは大体主軸になる人間がひとりいて、自分が作るよりも誰かにやってもらった方が良さそうな方向性の曲があると、スケジュールが合う場合はその人間をプロジェクトに入れたりして参加メンバーを決めていくんです。先ほどお話にあがったラスボス感のある曲は高橋が作ってるんですけど、彼は状況描写をする劇伴が上手くて、いま起こってる状況や風景、世界観を描写するような音楽が得意なんですよ。僕や帆足は人間の心情や切ない感じを表現するのが好きだったり、それぞれの得意分野があるので、それを合わせてひとつのものを作っていくとシーンごとのクオリティーもより上がるんです。

――瀬尾さんの得意分野は何でしょうか?

岡部 瀬尾は日常っぽい曲が得意なので、今回もそういう曲で参加してもらってます。クリスマスの曲は比較的ポップなものが求められたので、それも担当してもらいました。それと瀬尾自身は学生のときに合唱をやってたので、今回新しく作った「窓辺の灯り」という聖歌っぽいイメージの曲は「これはお前のオハコだろ?」ということでやってもらいました(笑)。『ゆゆゆ』の音楽は少女の可憐な感じをイメージしてるのであまり男の声を前に出すことはしてないんですけど、「ニーア オートマタ」(2017年)の音楽では瀬尾が男声のコーラスをやってるんですよ。

――そういった役割分担はMONACAという作家チームならではの制作体制と言えそうですね。

岡部 そうですね。劇伴はひとりでやるには大変な曲数ですし、何人かでやると効率が良いですから。僕と帆足はなんだかんだで長い期間一緒にやってるので、それぞれのクセもなんとなく理解していて、安心して委ねられるますからね。たまに外部のクリエイターさんに手伝ってもらうこともありますけど、やはり初めての人にお願いする場合は、なかなか相手の得意な部分を掴めなかったりしますから。なのでクリエイター個人の能力というよりは、人間関係やコミュニケーションの部分が大切だと思います。

――あと『ゆゆゆ』の劇伴は歌入りの曲が多いですが、そこは意識して作られてる部分なのでしょうか?

岡部そこは監督から具体的に「ここは歌ものにしてほしい」という指示をいただいて作ってます。今回の新規曲もエミ・エヴァンスさんというシンガーの方に歌っていただいてるんですが、歌入りの曲が流れる場面はキャラクターの心が動いてるときでもあるので、心が動かされる歌というのを意識してやらせていただいてます。楽器でやるよりもさらにエモーショナルなものを心がけましたね。

――アニメ1期や『鷲尾須美の章』の劇伴で歌われてる中川奈美さんの歌声も、和の神秘性を感じさせるコーラスワークが特徴的ですね。

岡部 中川さんは『勇者の章』で追加した曲には参加してないんですけど、基本的に重ねる合唱曲みたいな部分の歌を担当していただきました。中川さんは声を楽器として捉えたときにずば抜けていろんな表現ができる方で、そういう説得力があるんです。中川さんもエミさんも歌に無国籍感がある方なので、エミさんは少しヨーロッパっぽい感じで『ゆゆゆ』の劇伴の中では特殊な役割を担っていただいてて。逆に中川さんはアジアっぽいフィールドをイメージさせるものを歌ってもらってますね。

――おふたりとも「ニーア」のサントラにも参加されてる方ですが、ボーカルの人選にも特別な意味合いがあったりするのでしょうか?

岡部 エミさんに関してはプロジェクト側から具体的に彼女に歌ってほしいというお話をいただきました。彼女とはお付き合いも長くて、普段はCMとかで歌われたり、いろんなタイプの歌い方ができる方なんですけど、僕たちはフワッとした感じの歌をお願いすることが多いんです。なので僕らが連絡すると「例のアレね」みたいな感じで(笑)、最初から求められるものをなんとなく理解してくれてるので、僕らとしても人間的にやりやすいんですね。

――演奏で参加されたミュージシャンの方々についてはいかがですか?

岡部 弦やオーケストラの場合は譜面を細かく書いていくことが多いんですけど、バンド楽器の場合はコード譜と全体の構成だけを作っておいて、あとは口で伝えて細かいフレーズはプレイヤーさんに委ねることが多いんです。特にギターの方は、音符をなぞってもらうよりすべてを委ねたほうが上手く弾ける人が多い印象がありまして。『ゆゆゆ』で弾いてもらったギターの後藤(貴徳)くんは音大出身で譜面にも強いんですけど、やはり委ねて弾いてもらったほうがギターならではのフレーズやボイシングもありますし、僕らとの仕事に慣れている部分もあるので、気軽にポンとお願いできる相手です。フルートの赤木(りえ)さんとも以前に別のプロジェクトで何回かご一緒したんですけど、そのときに「和風なテイストで吹いてみてください」とお願いしたら、想像以上に尺八みたいな音を出していただいて(笑)。それで今回も日常曲は普通にフルートを吹いてもらいつつ、樹海のシーンでは篠笛とか尺八っぽい音を吹いていただいたんです。そんなふうにプレイヤーの方に頼って作ったところもあるので、いろんな人に助けてもらって成り立ってる感じはありますね(笑)。

――主題歌についても聞かせてください。讃州中学勇者部が歌う『勇者の章』のOPテーマ「ハナコトバ」は、アニメ1期のOP「ホシトハナ」、三森すずこさんが歌う『鷲尾須美の章』のOP「サキワフハナ」に連なる印象を受けました。この曲はどのようなコンセプトで作られたのでしょうか?

岡部 オーダー自体もその流れで作ってほしいという話だったので、自分のなかでも連なる方向性で作りました。「ホシトハナ」のときはどちらかというとミステリアスで独特の世界観や、彼女たちの可憐さや切なさに寄せて作ったんですけど、今回はユーザーの方も〈ゆゆゆ〉の世界観を理解したうえで聴いてくださることがわかっていたので、より宿命感を感じさせる、バトル感や勢いのある方向に振ったイメージですね。

――リズムワークも印象的で、Bメロからサビにかけて畳み掛ける感じがありますね。

岡部 そうですね。A、B、Cでどんどん上がっていく感じは、それぞれのブロックごとに違う印象を与えられるように心がけて作りました。

――それと落ちサビの部分は、結城友奈役の照井春佳さんと東郷美森役の三森すずこさんが交互に歌うようなパートになっていて、物語の中での関係性を示唆してるような印象も受けました。

岡部 僕も作ったときにそうなるだろうなと予想しつつ(笑)、歌割りに関してはプロジェクト側に委ねていたんです。実際に出来上がったものを聴いたときは、照井さんの結城友奈に対する思いが「ホシトハナ」のときよりも明らかに強く感じられて、僕はそれがすごく歌に出てると思ったんですよ。単純に歌として上手い下手とは関係ないところの説得力というか、別にすごくニュアンスをつけて歌ってるわけではないんですけど、聴いてる人に訴えかけるものが出てる歌だと思いました。それと三森さんが歌われてる東郷さんのクールな感じともコントラストがあって、あの部分の歌割りはすごく良いなあと僕自身も思いました。なんか自画自賛みたいになってますけど、僕が良いというよりも歌割りや実際に歌ってくださった方々の良さがすごく出てるということです(笑)。

――歌入れの際に何か特別なディレクションはされましたか?

岡部 「ホシトハナ」の歌を録ったときは、キャストのみなさんがまだアフレコをそんなにしてない時期だったので、みんなキャラがまだフワッとしてて、歌ってるうちにキャラが変わっていくこともあったんですけど、今回はみなさんすでにキャラが染み付いてるのでブレもないし、むしろキャラの心情も含めて歌っていただけたので、あまり大したディレクションはしてないんです。特に〈ゆゆゆ〉のキャストさんは歌が上手な方が多いので、その辺の心配は全然ありませんでしたね。

――今回の『勇者の章』ではEDテーマの「勇者たちのララバイ」(こちらも讃州中学勇者部が歌唱)も岡部さんが作曲/編曲をされてます。岡部さんが『ゆゆゆ』でEDテーマを手がけられるのは今回が初ですね。

岡部 はい。いままでのOPテーマは劇伴のバトル的な曲、EDテーマは日常的な曲と通じる部分があったと思うんですけど、今回僕がEDをやらせてもらうことになったとき、監督からは清らかなイメージというお話をいただいたんです。なので今回は思い切って日常っぽいテイストではなく、日常と樹海化した世界のあいだ、どちらかに振り切れているわけではないけど、彼女たちの清らかな感じが出るような、穏やかかつミステリアスすぎない落としどころで考えて作りました。

――サウンド的には優しいタッチのオーケストラサウンドが全体で展開されて、サビはそこから開かれて光に包まれるような印象を受けました。

岡部 監督もサビは暖かさみたいなものがほしいということだったので、前半は心情としても悲しくはないけど楽しいわけでもないシリアスな感じ、ミステリアスな方向性で清らかさや透明感を出そうとしていて、サビでは温かみのようなものが心情に寄り添う方向になればと思って作りました。特に今回は(OPとEDの)両方やらせていただいたので、オープニングの勢いのある方向と対になるものというか、エンディングはより静かな方向にしてコントラストをつけたかったんです。

――なるほど。劇伴と主題歌の音楽全体で『ゆゆゆ』の世界観を表現されてるのですね。最後に、岡部さんのキャリアの中で『ゆゆゆ』の音楽はどのような作品になったかお聞かせください。

岡部 正直最初はここまで長く関わることができるとは思ってなかったので、僕の中でも大きな存在になりましたし、何より『ゆゆゆ』はファンの方の熱意をすごく感じるプロジェクトなんですね。普通はサウンドトラックを買って劇伴を聴くというのは少しマニアックな方向けだと思うんですけど、『ゆゆゆ』のファンの方はもともとサントラ好きの方でなくても劇伴をちゃんと聴いてくださる方が多い印象で。特に今回はOPとEDも担当して思い入れが深いですし、何よりも自分自身も納得できて、なおかつファンの方にも評価していただいてるプロジェクトだと思うので、すごく愛着のあるタイトルになりました。

――作り手側の熱意もすごく感じられる作品ですしね。

岡部 僕も途中で絵を断片的に見せていただいたとき、絵を描いた方の熱意をすごく感じたんですね。僕なんかは単純なので、ほかの方の情熱を感じて生半可なことをしちゃダメだと思いましたし、最後のひとがんばりで心が折れそうなときも、それを見て奮い立たせてもらうところがあって。プロジェクトのみなさんもそうですし、声優のみなさんも歌録りのときに『ゆゆゆ』に対してすごく大きな熱意を持たれてるのを受けて、僕自身も納得のいくフィードバックを返せたと思ってます。

Interview&Text By 北野 創


●作品情報
TVアニメ『結城友奈は勇者である -鷲尾須美の章-/-勇者の章-』
放送中

MBS 毎週金曜 深夜1:55〜
TBS 毎週金曜 深夜1:55〜
CBC 毎週金曜 深夜2:39〜
BS-TBS 毎週土曜 深夜0:00〜
AT-X 毎週月曜 夜22:00〜
リピート放送 毎週水曜14:00~/毎週土曜6:00~

【スタッフ】
原作:Project 2H
企画原案:タカヒロ (みなとそふと)
総監督:岸誠二
監督:福岡大生
シリーズ構成:上江洲誠
脚本:上江洲誠、タカヒロ
キャラクターデザイン原案:BUNBUN
アニメーションキャラクターデザイン&総作画監督:酒井孝裕
コンセプトアート:D.K&JWWORKS
音楽:岡部啓一・MONACA
アニメーション制作:Studio五組

【キャスト】
鷲尾須美の章
鷲尾須美:三森すずこ
乃木園子:花澤香菜
三ノ輪銀:花守ゆみり
勇者の章
結城友奈:照井春佳
東郷美森:三森すずこ
犬吠埼風:内山夕実
犬吠埼樹:黒沢ともよ
三好夏凜:長妻樹里
乃木園子:花澤香菜

©2017 Project 2H

関連リンク

この記事を書いた人