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INTERVIEW

2025.08.12

【連載】May’n Road to 20th Anniversaryインタビュー連載「Crossroad」:第5回 加藤裕介

【連載】May’n Road to 20th Anniversaryインタビュー連載「Crossroad」:第5回 加藤裕介

May’nがデビュー20周年を記念してリリースするベストアルバム『TWENTY//NEXT』。その1枚に収録される再録曲14曲+新曲1曲をMay’nと共にプロデュースしたのが作曲家・音楽プロデューサーの加藤裕介だ。2021年にCygamesの設立10周年を記念して公開されたコーポレートアニメーションムービーの主題歌「Follow Your Fantasy」で歌唱担当と作編曲者として出会った二人は以降、短期間のうちに幾度もクリエイションを重ねてきた。2025年に限っても、中日ドラゴンズの「ヴィクトリーショー」用使用曲「ONEBLUE.」、中島愛に提供した「I AM」、と、加藤はMay’nにとって意味ある書き下ろし楽曲で共同作曲者として名を連ねている。
20年の活動の中でも特異の存在と言える加藤とはMay’nにとってどのような存在なのか、そしてその加藤の目にはMay’nはどのように映っているのだろうか。

PHOTOGRAPHY BY 三橋優美子
TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)

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【連載】May’n Road to 20th Anniversaryインタビュー連載「Crossroad」


どんどん生まれ変わっていく気概に満ち溢れている人

――まずは「Follow Your Fantasy」で出会った際の印象について教えていただけますか?

加藤裕介 僕は『マクロス』ファンの一人としてMay’nさんを知っていて、いつか一緒にお仕事したいと思っていました。ただ、「Follow Your Fantasy」でお会いした時はプロフェッショナルとして、すでにファンが多くて実力も知れ渡っているMay’nさんに対して、その型をキープするのか、あるいは新しい部分を引き出せばいいのか、考える必要がありました。でも、May’nさんは高い技術も素晴らしいエンタテインメント性も持ち合わせているけれども、いろいろなものを吸収してどんどん生まれ変わっていく、という気概に満ち溢れている方だったんです。それを強烈に感じたのを覚えています。なので僕がするべき仕事は、初めてお会いした「Follow Your Fantasy」の時から今に至るまで、May’nさんが爆発するのをサポートすることだと考えています。今回のアルバムでもずっとそうでした。

May’n 私も、かっこいいと思った楽曲のクレジットを見ると加藤さんの名前がよく載っていることに気づいて、いつかご一緒させてもらいたいと思っていました。そんな時に「Follow Your Fantasy」のお話をいただいたんです。この曲は、楽曲は加藤さんが担当します、ボーカリストはMay’nさんでお願いします、とすでに座組が決まっていて、私としてはワクワクしながらレコーディング現場に行ったんですけど、久しぶりに辛すぎて失神しそうになりました(笑)。楽曲が難しくて、自分の中に見えている完成形になかなか届かないというのもありましたけど「もう一回」「もう一回」と、延々と続けていたんです。今の時代、機械で直すことができたり、あるいは喉がもたないとか時間がないとかそういうこともあったりして、なかなかこだわりを出せる現場ばかりとは限らないんですけど、加藤さんは細部までこだわられる方でした。あの、「まだ終わらない……、まだ終わらない……」というレコーディングは本当に忘れられないです。

加藤 「Follow Your Fantasy」は独特のグルーヴがある曲で、特にBメロの拍子は難しいところでした。前へ前へと行く部分もあるけれども、機械のような正確さだけでは魅力的な音楽にはならず、歌い方を切り替える必要のある曲だったので、3曲分ぐらいのカロリーを使う曲でしたね。

May’n しかも加藤さんは、技術的な部分も細かく見てくださるんですけど、歌に心が入っているかどうかを大事にされている方なので。どちらも両立させるというところで終わりが見えないような感覚になったことはすごく覚えています。

加藤 それは僕もよく覚えていますね。May’nさんにはとことん付き合ってもらえました。音楽の本質って、聴く人が感動したり泣いたり笑ったりできるところにあると僕は考えているんですけど、May’nさんはそのレベルまで追求できる方であり、しかも僕と目指す方向がある程度一致しているとも感じられました。なので、自信を持って自分の感覚を提案できるとも思ったんです。

May’n 「Follow Your Fantasy」には「和」要素もJ-Popな歌い方もありますし、勢いがあるアニソンらしさもちょっとクラシカルな歌い回しも必要な楽曲だったんですけど、特にミュージカルで得た引き出しを開けることができた曲でした。ミュージカルを経験した時、今までのレッスンで学んだこととはあまりに違っていたので、それを自分のフィールドに活かそうとは思わず、「ミュージカルの世界の歌を私は手に入れよう」という気持ちだったんですね。でもだからこそ、「Follow Your Fantasy」ではやってきたことが全て繋がる感覚を持てました。それがすごく嬉しかったですし、「ミュージカルやってて良かったです」という話をレコーディングでした覚えもあります。

――つらいレコーディングの中で得られた宝物みたいな。

May’n でも、私自身もドSでありドMなので(笑)。加藤さんとのレコーディング後、家に帰る頃には「このレコーディングは楽しいぞ」みたいな気持ちにはなっていました。歌っている最中はめっちゃ大変でも手応えをすごく感じていましたし、MIXをご一緒させてもらっていても、おこがましいですけど、細かい部分で共感できていたんです。なので、またご一緒させてもらいたいと強く思いましたし、実際に「破鏡重縁」で編曲をお願いしました。楽曲のジャンルやテイストとは関係なく、自分の中のイメージを形にできなかったり、感覚を言語化しづらかったりして困った時には加藤さん、という気持ちです。今回も、ベストアルバムということでいろいろなジャンルの楽曲があることから加藤さんにお願いしました。加藤さんからいろいろなアレンジャーさんをご紹介いただく形になりましたけど、軸となる部分を一緒に考えていただけました。

加藤 「Follow Your Fantasy」でグルーヴ感を共有できたことは、今回の「You」や「アオゾラ」といった曲に生かされていると思います。そうやって、May’nさんが元々持っていた感性が引き出される、ということもたくさんあったと思いますし、『TWENTY//NEXT』ではそういった技術を曲ごとに細かく追求していくことの繰り返しでした。ただ、その分すんなりいった曲もなかったです。

――ベストアルバムではあるけれども、先ほどお話しされた「新しいMay’nに生まれ変わっていく」部分が詰め込まれているわけですね。

加藤 May’nさんは、いい意味で今の自分に囚われていなくて、「私はこれからも柔軟に、今持っている良さをキープしながら生まれ変わっていきますよ。ついてこれるんですか?」という圧を僕はいつも感じています。

May’n (笑)。

加藤 なので、自分の知識と技術を総動員して応えさせていただいていますね。僕にとってMay’nさんとのお仕事というのは、カロリーが非常に高いですけど、成長させてももらえるのですごくやりがいがあります。

May’n 加藤さん、前に私の番組『May’nの今夜はフルコースで』に来てくれた時、めっちゃいいことを言ってくれましたよね。それを言ってください!

――もう一度聞かせてください、と(笑)。

May’n はい、ここに残しておきたいので(笑)。めっちゃ感動して、帰り道はずっとその言葉について考えていたんです。

加藤 僕が言ったのは……。アーティストさんは常にご自身の感性を信じて思うままに表現すべきだと僕は基本的には考えているんです。ただ、May’nさんは自分の道を突き進みながら、その上で例えば僕が何かリクエストすると「そうかもしれない」「試してみて良かったら取り入れよう」という姿勢を毎回とってくれるんですね。結果、May’nさんの型や歌いたい形であると同時に、僕が見せてほしい表現をも叶えた歌に最終的にはたどり着くことができて、僕もMay’nさんも「これ、めちゃめちゃいい!」という域にいけるんですよ。強い芯の部分と柔軟性とを併せ持っているところがとても素晴らしいです。『TWENTY//NEXT』で15曲のレコーディングでディレクションさせていただきましたけど、それを強く感じました。(May’nに向かって)……という話で合っていますか?

May’n 合っています。ありがとうございます(笑)。

――加藤さんの提案をもらった時、その完成形が見えていたり、実現できる自信があったりしているのでしょうか?

May’n いや、自信はないです。ただ「やりたい」だけです。例えば、私が頭で想像した歌に対して練習したり試行錯誤したりしても、一人ではどうしてもたどり着かない時があるんです。でも、加藤さんのディレクションって細かいというよりも「雰囲気」で、でも手招きされているような感覚があるんです。加藤さんのディレクションを試すことで自分の思い描く歌にたどり着きやすいんです。それに「もっとこの歌い方で歌ってみたい」とも思わせてくれます。やっぱり、自分がいいと思う歌が第三者にとってもいい歌とは限らないので、客観的に自分の歌声を聴くことを大事にしてはいるんですけど、加藤さんとはそこの感覚が同じだと思えるんです。私がどんなメロディを好きか、どういうメロディをかっこいいと思うかはやっぱり好みでしかないと思いますけど、そのバランスが似ているな、と毎回お仕事をご一緒するたびに思います。

May’nの現場は楽しいときっと思っているはず

――May’nさんと共同で作業を進める中で加藤さんが感じたことについて教えてください。

加藤 「Follow Your Fantasy」で初めてお仕事をした時、なんとなく、May’nさんは自分で歌いたい曲を自分でもっと作って、ある意味、シンガーソングライター的な見え方をする曲を増やした方がいい印象を持ったんですよ。だから、自分でもっと作曲しましょうという感じの話もしました。作曲って1年、2年で技術が身につくわけではないですけど、May’nさんの一ファンとして、これまで作られてきた曲でそのフィーリングやメロディのセンスを僕はわかっていたので「あとは知識と技術だけを積み上げていけば……」と思いました。その話を覚えていただけていたのか、一緒に作ってもらえませんかという話を「カラフルスコープ」でいただくことができました。最初はまず、May’nさんから歌ってみた的なデモをいただくんですけど、やっぱりセンスがすごく良くて。あとは、理論的に修正していけばよりバランスの取れた作品ができると思いました。このセンスがあれば、あと少し技術を知ればプロの作曲家が手を入れなくても良い曲がたくさんできると思います。ただ、技術的になり過ぎると一時的にアーティスト的自由度は束縛されてしまう、というところは心配していて。歌手である自分が歌いたいものを作るはずが、変にプロ的にまとまってしまっても面白くないかもしれないと思い、自由な発想で作ってもらう中で僕は技術的にお手伝いをさせていただく、という思いでご一緒していましたね。僕がどこまで提案させていただくかは曲によって変わりますけど、基本的にはMay’nさんは歌いたいものを自分で作る、というのがスタート地点です。そういう曲を僕もファンとして聞きたいので。

May’n 私は、100個こだわる部分があったとして、その全部をリスナーの皆さんに気づいてほしいとは思わないんです。ただ、気づかれないとしても細部までこだわらないとかっこいいと思う音楽は作れないと思っています。それに宝探しみたいに、「こんなところに!?」って楽しみもあるので。だから、曲でもライブでもこだわりたくなってしまうんですけど、加藤さんとは現場でお話ししていると同じものを感じます。私がいろいろとお話を聞きたすぎて、「あそこのアレンジはかっこいいですね?」とか「ここは最初のデモと変わりましたけどどうしてですか?」と話をするんですけど、加藤さんも1聞いたら50くらい返してくれるんです。勿論プロは皆さんこだわっていると思うんですけど、加藤さんは自分と同じ熱量を持っているというか、そういう確信を得られたので何度もお仕事をご一緒させてもらっています。それに加藤さんはわかりやすくて、良いテイクがとれたら「いいですね!」って感じなんですけど、そうじゃない時は「いい感じだと思っているならOKですけど……」みたいな(笑)。でも優しいから「違う」とは言わずに、「何かやりたいことがあるということは伝わりました」とだけ言ってくれるんです。そうなると私も負けず嫌いなので、加藤さんが「100%いい!」と思うOKが欲しくて、「もう一回やらせてください」となるんです。今回の『TWENTY//NEXT』でも「もう一回」と言うことは多かったです。

加藤 それで言うと、僕は「良くない」と思ったことは一度もないですよ。ただ、「もっと上」が絶対にあるということは長年の経験で分かるので。それもあってMay’nさんの度量の大きさに甘えて、自分が感じたことは素直なテンションで一旦全部伝えるということは初期の段階から決めていました。ただ、「もう一回録ろう」となった時、二人の気持ちはほぼ一致しているんですよ。スピーカーから出る音と、一度デジタルになってからコントロールルームに流れてくる音は若干違っていて、そこをフォローするのもディレクションの仕事なので、「今度はここに気をつけてもう一回歌いましょう」みたいに僕からひと声かける感じですね。プロデュースの形として、最終的にどこまでこちらの意見を強くお勧めするかは場合によるのですが、今回の『TWENTY//NEXT』では現場で一緒に組み立てていけたと思いますし、そういう形でやらせていただけたのですごくやりがいがありました。

May’n でも、「Follow Your Fantasy」の時からそうですけど、加藤さんにはいつも「言わせてもらえる環境」を作っていただいていますし、一緒に悩んでもらった感覚もありました。

――共に苦労を重ねてもらえた手応えが?

May’n そうですね。でも、そういうところも含めて「一緒に楽しんでもらえたかな」って思っています。「きっと加藤さんはMay’nの現場が楽しいと思っているだろうな」とは心から感じています(笑)。

加藤 今回、僕はco-producerとして関わらせてもらいましたけど、May’nさんは僕に、「こんな音楽はどうだろう」「こうしたらかっこよくなる」と一緒に考える余地を与えてくれていて、そこはセルフプロデューサーとしても素晴らしいところだと思います。共同プロデュースというものは二つの個性が話し合いながら進めていくので難しいところはあって……。僕もあくまで仕事として「出しゃばり過ぎないように」という思いではあるんですけど(笑)、でもMay’nさんには楽しくやらせてくれるだけの器の大きさがあって、人として本当に尊敬できる方だと思っています。

May’n やった!(笑)。リアレンジってやっぱりチャレンジなんです。元の楽曲はアニメの世界観を第一に作っていますし、ほとんどはリリースから10年以上歌い続けている楽曲なので、壊す怖さがどうしても出てきます。ファンの皆さんと一緒に楽曲を大事にしてきたので、壊すことはないという自信があったとしても。でも加藤さんは、楽曲の作り手でもMay’nチームのスタッフさんでもないけれども、ファンが大事にしたいポイントとか、リアレンジすることで今のMay’nを出す意味とか、そういう説明しづらいバランスを守ってくださったのですごく嬉しかったです。音楽のプロとして楽曲の魅力を感じ取る、というよりもMay’n楽曲を同じように愛してくださったんです。本当に幸せなことだと思います。

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