May’n20周年連載の第3回は、May’n・菅野よう子・佐々木史朗の鼎談後編。そのスタートは、15年前から見つめてきた菅野と佐々木の目に映るMay’nの姿から。座談会中変わらずに鳴り響く笑い声に導かれ、デビューから20年の間でMay’nに生まれたさまざまな出来事や変化、そこから導かれた成長や進化がつまびらかに解き放されていく。いつまでも話は尽きない中、May’nも、自分を包み込む大きな存在を前にこれからの自分を語ってみせる。
PHOTOGRAPHY BY 堀内彩香
TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)
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菅野よう子 そういえば、今日はMay’nちゃんの20周年をお祝いするコメントを言わないといけないのよね。
May’n・佐々木史朗 (笑)。
佐々木 では、先に僕から。さっき菅野さんがMay’nちゃんをアスリートと称していましたけど「まさに」という感じですよね。向上心がすごく強いので、一つ目標をクリアしたら次の目標、次、次……、と進んでいくし、人間関係を増やすという点においても貪欲ですし。ただ、若い頃はどうしても多少肩に力が入っていたんだけど、声帯ポリープで手術をしたあとあたりからいい具合に力が抜けてきたんですよ。今ではまるで、相手に攻めさせてから寄り切るような横綱相撲をとれているので、ますます実力者であるように見えてきました。向上心の塊であるところをそれほど見せずに余裕を持ちながらパフォーマンスできている、というところは本当に素晴らしいと思います。
菅野 ポリープの手術をしたときは本当に大変だったよね。
May’n 調子がよくないのかなぁと感じてはいたんですけど、女性でも声変わりがあると聞いていたので、少しハスキーになったり声が低くなったりするのかと思っていたら、「ヤマイダレdarlin’」のレコーディングで久しぶりに菅野さんにお会いしたとき、声が変だと指摘されて……。それで新しく病院を探して診察を受けたら、即手術と言われました。
菅野 いや、私のせいで喉がおかしくなったのかと思ったんだよね。私のひどい……、なんというか……。
佐々木 ひどい「キー設定」?(笑)。
May’n (笑)。でも、あのときの自分は頑張りすぎていたと思います。ツアーなどで週5日歌って喉が荒れても、「プロだから当たり前」と思って気持ちで乗り越えて。そういうのを繰り返していたので体が先にヘルプを出してしまいました。
佐々木 それより何年も前、初めてZeppを巡ったライブツアー(『May’n SUMMER TOUR 2009 “LOVE&JOY”』)のとき、大阪公演で声が出なくなったことがあったよね。初めての経験だったから人前で泣かない子がステージ上で泣いてさ、翌日も名古屋公演があるから注射を打って……、という感じでドタバタだったことをすっごくよく覚えている。
May’n 今はケアを見直し、体の声を聞いたりマネージャーさんにもすぐ言ったりして、体がボロボロになるまで我慢することはやめました。あのときのことは反省しています。
菅野 MCも急に良くなったんだけどそれも理由があるの? 最初の頃はあまり上手ではなかったけど。
May’n 思っていることをありのまましゃべろうとしたら、うまくいくようになったんだと思います。
佐々木 力が抜けて間が良くなったよね。
May’n ボイトレの先生から「May’nちゃんは全然愚痴とかを言わないけど、誰にも言わないから今思っていることを私に言ってみて」と言われたんです。それまでは人前で愚痴を言うのが嫌で、でも我慢している部分もあったので、初めて大人に対して「マジでムカつく」とかそういう自分の気持ちをぶつけてみたんですけど、先生が「May’nの愚痴はめっちゃ面白い」って笑ってくれたんです。そのあと、別の人にも「マジ最悪だよね」みたいな話をしたら笑ってくださって。なんていうか、私は愚痴を言ってもいいのかもしれないと思えたら心が解放された気に慣れました。そこで人間力が広がった気はしています。
菅野 そういうところをMCに出せるようになったということだよね。
May’n そうですね。それこそシェリルの曲を歌っていたときは、「シェリルみたいなかっこいいMCを」「いいこと言わなきゃ」という気持ちが強かったんです。でも、名古屋にいたときのようにだらっとしゃべる自分を出したらシェリルではなくなるし。でも、めぐみちゃんに対して羨ましい気持ちもあって。私はどれだけ歌ってもシェリルの“半分”にしかなれないし、キャラクターとしてのMCを任せてはもらえないんです。ただ、自分がMCをすることで世界観を壊したくないので、そこでの葛藤はすごくありました。シェリルになれないもどかしさ、みたいなところで。
佐々木 だけど、(熱気バサラのボーカル担当である)福山芳樹やMay’nちゃんの方が精神的に自由な部分もあるよね。イコールになるとやっぱりつらいところがあるから。僕から見ると福山やMay’nちゃんはいいポジションにいるとは思う。
May’n まさに福山さんが最初に相談に乗ってくれたんです。「俺らってどうせ半分にしかなれないし、しゃべったら偽物だしさ」「でも、それでいいんだよ」みたいに仰ってくれたので吹っ切れたところがありました。それでも、福山さんが話している姿はバサラにしか見えないんですよ。だから私も、何をしたとしてもシェリルと思ってもらえる、そんな自信を先輩に教えてもらいました。
菅野 自信がないところが少しでも見えると、見ているこっちはやっぱり冷めちゃうからね。
May’n そうですよね。事務所の方からは、人前に立つ歌手だからこそ伝えるMCをしなければいけないと言われていたんですけど、10代の子に強い想いなんてないし、自分よりも年上のファンも多いのに上から目線なことも言えないし、多分ちぐはぐだったんです。MCが一番緊張していました。でも、上手くない自覚はありつつも「そんなにMCって大事ですか」「伝えたいことは全部音楽で届けるのでMCの分長く歌いますから」という気持ちもあって。
菅野 (笑)。ホント、気が強くて面白いよね。
May’n May’nになってからもライブが終わるとMCについてよく指摘されていました。ありがたいお話ですが。。。今は、感謝の曲を歌うときに言葉でも伝えることでもっと届けられると思うようになりました。言葉の大切さを学んだ20年間でもあります。菅野さんから学ばせていただいたことでも、めちゃめちゃ覚えていることがあって。
菅野 なんのこと?
May’n クレープ屋さんが近くにあるスタジオでよくレコーディングしていたとき、菅野さんが「あー、もうクレープ食べたい、クレープ食べたい、クレープ食べたい」って叫び出して。「大人なのに!?」と思ったんですけど、「お腹が空いたら正直に言ってもいいんだ」とも思ったんです。ブースでテイクを聴くときも「私、今日はここで聴いてみたい」とか言って、機材の上で寝転がりながら聴くこともありました。でも、みんなが楽しい現場ですし、それによって生み出されるものもあったので、「だから菅野さんは天才なんだ」と思いました。だから、私が急に「クレープ食べたい」と言い出したらそれは菅野さんの教えで。
菅野・佐々木 (笑)。
May’n こういうキュートな大人になりたい、と思ったこともすごくよく覚えています。
菅野 恐ろしいね、人が見ている自分の姿って(笑)。でも、言い訳がましいかもしれないけど、売れるかどうかを判断するのって動物の勘であって、“本能”の部分なんですよ。だから、綺麗に爪を磨いていないとわからないんです。例えば、TVを見ながらぼーっとしていては本能が感じ取れない。産毛が立ってこない。すごく繊細な感覚なんです。だから……、お腹が空いているとわからない。
May’n・佐々木 (笑)。
May’n 途中までは「さすがだな」って思いながら聞いていたんですけど。
菅野 いやでも、本当にそう! 結局、自分の感覚しか頼るところはないので、自分をいいテンションに仕上げておかないといけないんですよ。クレープもお腹いっぱいまで食べてしまうとわからなくなるんだけど、そのとき食べたいものでお腹を満たしてからいいテイクを選ぶんです。真剣勝負なんですよ。このテイクが良いか悪いかなんて実はギリギリのところで、ダサいかもしれないけどすごいかもしれない。その判断をミリ単位でしているのに、お腹のことに気を取られたら逃してしまう。信じられるものは動物的な勘だけ、ということがわかっているので。他のことに気をとられて勘が流れていくのが許せない。だって、売れるかどうかなんて誰もわからないよね。どこの教科書にも載っていないし。でも、私が売れると思った人は絶対売れるんです。May’nちゃんもそう。だから、「あれ? 判断を間違えちゃった」ということがないように、常に本能を磨いておくんです。……という言い訳です(笑)。
May’n でもわかります、集中したいときに、ちょっとしたことが邪魔になる瞬間はありますよね。私も、睡眠は取りますし、ちゃんと食べるし。4つのジムに通っているというのも自分の体に聞くからなんです。例えば、「今日はリラックスしたいからヨガ」といった体の言葉を。
菅野 そう、匂いなのか何なのかはわからないけれども、なるべく本能的なところで判断したいんです。
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