INTERVIEW
2023.11.18
――その頃、『プリキュア』が大きなコンテンツになりそうな雰囲気は感じていましたか?
五條 あの……正直、最初はあまり期待されていなかったと思います。でも、当時、『ふたりはプリキュア』(以下、初代)の放送が2月にスタートして、3月くらいに池袋のサンシャインシティ噴水広場でイベントを行ったら、3階までいっぱいになるくらい人が集まったんですよ。CDもおもちゃも数をあまり用意していなかったので、ほぼ皆さんに歌を聴いてもらうだけになったくらいで(苦笑)。ただ、そのときに人気のすごさは感じました。大阪と東京で第1話の試写会があったときも、来ていただいた皆さんの反応はすごく良かったです。それに、あの当時はいわゆるタイアップ的な主題歌が多かったと思うんですけど……。
――J-Popアーティストによる主題歌が増えていました。
五條 でも、(OP主題歌の「DANZEN!ふたりはプリキュア」は)久しぶりに番組名を連呼する曲だったんですよね。しかも『ふたりはプリキュア』は(プリキュアのカラーが)黒と白だったので男の子もイベントに結構来てくれたんです。2年目が決まった時点で『プリキュア』がかなり浸透してきたとは感じました。それと当時は(プリキュアの)声優さんが表に出てくることもなかったので、主題歌を歌っている私がイベントに出ることが一番多い立場で、視聴者の皆さんと会う役目だったんです。だから、プリキュアに対する興味や空気感はすごく感じていましたし、私はそれをスタッフさんや声優陣にお伝えてしていました。1年目はほぼ稼働なしで、2年目で少しずつ稼働が増えてきたのかな?イベントがちゃんと動き出したのはもう少し後だったと思います。
うちやえ その辺りからお試しで色々やるようになったよね。
工藤 私たち(工藤と宮本)が担当した『5』のときに初めて衣装を作ってもらえて。
宮本 サンクルミエール学園の制服の衣装を着て、プリキュアの友達という感じでした。
工藤 私たちは主題歌シンガーとして作品をよく理解した上で子供たちの前に立つ、子供たちとプリキュアを共有することを非常に大事にしていた記憶があります。
――今は、「プリキュアの主題歌シンガーに決定=イベントやライブで忙しい1年」というイメージですよね。うちやえさん、工藤さん、宮本さんは『プリキュア』に参加されるときの心境は覚えていますか?
うちやえ 私は1年目に『ふたりはプリキュア ボーカルアルバム2 Vocal Rainbow Storm!!~光になりたい~』で1曲(「Beautiful World」)歌わせていただいたんですけど、そのときに五條さんと名刺交換をしたんです。
五條 そう、やえさんが名刺に顔写真をシールにして貼っていて。
工藤 ありましたね!
うちやえ その後に『スプラッシュスター』のOP主題歌(「まかせて★スプラッシュ☆スター★」)でまた歌わせていただくことになったんです。私からすれば、『プリキュア』の曲にこんなに適した人はいないだろうと思う歌声の五條さんがいるのに、主題歌を歌うことになって「大変だ」と思いました。シリーズが変わっての歌い手変更でもありましたし、今みたいに毎年シリーズが変わるという流れができていなかったので、自分の歌だけではなく、『スプラッシュスター』が受け入れてもらえるといいなと思っていました。
五條 いつ終わるかわからないっていう状況だったよね。『5』のときも。
工藤 そんな感じでしたね。私、最初にプリキュアのお話をいただいたときはステージの方のお仕事だと思ったんですよ。
五條・うちやえ・宮本 (笑)。
工藤 でも、ふたを開けたらお歌のオーディションでした。私のときは5次審査くらいまであったんですよね。私自身、五條さんが歌う『プリキュア』の楽曲が好きでよく歌っていましたし、『スプラッシュスター』のアニメも観ていましたけど、お二人(五條とうちやえ)のようなお姉さんな歌声ではないし、歌い方も全然違っていて。ただ、私はダンスが好きで、子供たちと一緒に歌って踊れる人というところで選ばれてもいたので、とにかく全力で歌って踊っていました。振付も自分で考えましたし。
――必死な気持ちで。
工藤 そうですね。『5』のOP主題歌(「プリキュア5、スマイル go go!」)を歌うことが決まったときは嬉しくて夢心地でしたし、テレビで実際に観るまでは信じられなくて、放映を観たときは泣きました(笑)。ワクワクでいっぱいだったことを覚えています。あと、五條さんとの初顔合わせがレコーディングだったこともすごく覚えています。
五條 最初の頃は、コーラスや仮歌はほぼ私たち(五條とうちやえ)だったので。
工藤 すごく緊張しながら挨拶したんですよね。でも、私が「真由」で五條さんが「真由美」なので、勝手に「まゆまゆ同士だ」とは思っていました(笑)。うちやえさんとはそれこそ、佳那子も話していたようにミュージカルで1年間ご一緒して、「ついていこう!」という気持ちでした。ミュージカルが終わった夜、ホテルで佳那子と反省会をしていたんですよ。私から「集合!」って声をかけて、主題歌歌手になったからには次にちゃんと繋げられるように、ここで終わらないようにしていこう、って熱く話し合っていました。部活みたいな感じで(笑)。
宮本 そうでした(笑)。「こんなに完璧なお姉さん二人と並んで歌う私たちには何ができるんだろう?」みたいな話をしていました。工藤さんは「私はダンスが得意だからダンスを頑張る」と言っていましたけど、私は特に何もないから「子供たちと1番歳が近いので笑顔で頑張ります」みたいな。そうやってお互いを励まし合いながらやっていました。
工藤 すごく語っていたよね。お酒も飲んでないのに(笑)。
宮本 その頃は2人とも未成年だったので。
――宮本さんは、デビュー曲が『5』の前期ED主題歌「キラキラしちゃってMy True Love!」ですが、それ以前にもヤング・フレッシュの一員としてコーラスで『プリキュア』シリーズに参加していましたよね。
宮本 コーラスとして「ゲッチュウ!らぶらぶぅ?!」と「ムリムリ!? ありあり!! INじゃぁな~い?!」に参加していました。五條さんにはそのとき、(当時プロデューサーの)鷲尾(天)さんから紹介されてご挨拶したのが初めてでした。「背の高いお姉さんだなあ」という印象で。
五條 アハハ(笑)。
宮本 「キラキラしちゃってMy True Love!」は歌のオーディションがあると言われたので、「あ、受けます」という感じだったんですよね。
――慣れた現場ということで緊張しなかったのでしょうか?
宮本 緊張よりも歌える喜びの方が勝っていたんですよね。子役の時にミュージカルもやっていましたし、全然上手くはなかったんですけど歌は好きだったので。でも、受かるとは思っていなかったです。歌えて、レコーディングしてもらえて、聴いてもらえるなんてハッピー、くらいの気持ちで歌いに行きました。
――なんて天真爛漫な(笑)。
宮本 そうなんですよね(笑)。オーディションを受けたのはOP主題歌だったんですけど、エンディングに決まって、そのときも「わーい!嬉しい!」くらいの感じでした。事の重大さを理解できていなかったと思います。
工藤 だから私がホテルで集合をかけたんだと思います(笑)。佳那子のそういうところに助けられてもいたんですけど、私はもうバリバリ熱い感じだったので、多分「もっと気合いを入れていこう!」と思ったんでしょうね。
宮本 私も受け入れてもらえるかはすごく心配でした。私が歌った「キラキラしちゃってMy True Love!」にしても、それまでのプリキュアの主題歌に比べると歌声に幼い感じがあったと思うので。第1話は本当に正座しながら観て、ちゃんと自分の歌が流れるか確認したくらいで。
――改めて『キボウノチカラ』の話を聞いたときの感想も教えてください。
五條 「おぉっ!」っていう感じでした(笑)。でも、「やっとできることなのかもしれない」とも思いました。私たちがプリキュアの曲を歌っていたときと比べると、だんだんと少し上の年齢の方にも観てもらえる作品になりましたけど、それでも“オトナ”まではいかなかったので。20周年ならでは新たな試みですよね。きっと視聴者の方たちと同じ感想だと思います。「えーっ!?」みたいな。
宮本 「あの子たちは永遠の中学生で大人にはならない」という気持ちがあったので、「プリキュアってオトナになるんだ」という印象もありました。
工藤 私は『5』への思いが一番強いので、知ったときは驚きました。でも楽しみしかなかったです。しかも、こうやって声をかけていただいたので。私としては、キュア・カルテットというすごく安心感のある場所で歌わせていただけるのですごく嬉しかったです。
うちやえ 私は、『オトナプリキュア』と聞いて一瞬「?」となりました。でも、実は『スプラッシュスター』のときに日向 咲、美翔 舞、霧生 満、霧生 薫の4人の将来を想って作った「奇跡の雫」という曲があって(『ふたりはプリキュアSplashStar VocalアルバムII ~奇跡の雫~』収録曲)、それは「流した涙も汗も大人になったときには宝物になるだろう」ということを想像して書いていたので、まさかこんなに年月が経ってから本当になるとは、という気持ちでした。彼女たちがどのように歩んできて、どんな服を着て、どんな生活をして、どんな職業についているのか、すごく楽しみです。「雫のプリキュア」の歌詞もすごく深いので、きっと色々あったんだろうなという想像が膨らみますし。
――他のお三方も、楽曲を受け取ったときの印象や感想を教えてもらえますか?
五條 最初は『プリキュア』のEDテーマっぽくない印象を受けて。それは『オトナプリキュア』だからとは思ったんですけど、でも何回も聴いていると、大きなドラマを感じさせてくれたので納得するところはありました。キュア・カルテット名義の楽曲ということで、最初はもうちょっと明るく楽しい感じを想像していて。なので「キュア・カルテットで歌うにはなかなかの大人曲だな」と思いました。
宮本 カルテットはお祭り曲が多いですもんね。
うちやえ 私も、『オトナプリキュア』だからこの曲調なんだろうなとは思いました。歌詞に“涙”という言葉がたくさん出てくるので、これまでの『プリキュア』では子供たちに向けて歌っていたけど、今回はどうするべきかをディレクターさんに聞いたんです。そうしたらやっぱり、「少しオトナに寄せてもいい」ということだったので、今までのプリキュアソングとは違う感覚を歌に乗せられる新鮮さもありました。
工藤 私も五條さんと同じで、もっと明るい曲がくると予想していたので、「こうきたか」と思いました。でも、歌詞には共感するところがたくさんあって。私は本当に『5』と一緒に育って、『プリキュア』には色々なことを教わってきた人生でもありましたし、(『5』の主人公/夢原)のぞみちゃんたちの気持ちになって、『5』の一員として歌わせてもらった部分もあったので、すごくすんなりと入ってくる歌詞でした。重い言葉もたくさんありますけど、それでも明るく前向きに、軽いというかラフな感じだけどキラキラして聴こえたので、「ああ、やっぱりこれは『プリキュア』だ」という感覚を覚えて、すごく嬉しく思いました。しかも、キュア・カルテットの歌声で聴いてもらえるので、皆さんの反応が本当に楽しみです。
宮本 私も初めて聴いたとき、葛藤して、苦悩して、日々の困難なことをたくさん感じる曲だったので、今までの『プリキュア』のイメージとは少し違っていました。でも、レコーディングのときに作品の説明で、(夢原のぞみたち)みんなは友達がいて、プリキュアとして戦って、優等生で……のぞみちゃんは勉強がちょっと苦手なタイプだったけど。
五條・うちやえ・工藤 (笑)。
宮本 でも、キラキラしていた子たちがオトナになって社会の壁にぶつかり、色々な苦悩を経験していく、と言われて、だからこういう歌詞なのかと納得がいきました。確かに前向きで、どこかにキラキラした希望が隠されているとも感じたんですよね。それに、キュア・カルテットで歌ったものを聴いたら、やっぱりキュア・カルテットの音色にはプリキュアらしさがあるから。『5』を観ていた子供たちが聴いたら、懐かしさとともに、オトナになった自分たちのことも一緒に感じられる曲になったと思います。
――『プリキュア』は頑張る女の子を描いた作品でしたが、『キボウノチカラ』はまだまだ女性には大変なことがある時代に、社会で頑張るオトナになった女の子が描かれるんだろうと感じさせる歌詞だと思いました。だからこそ、ソロではなく、4人で力強く励ますカルテットという形をとったことも納得しましたし、実際、かつて“女の子”だったオトナを励ます楽曲になっているとも感じました。
五條 嬉しいです。冒頭の“目醒めるとき 強くなる瞳に 一粒 光の雫がこぼれた”で4人の歌がパンと出てくるところは、キュア・カルテットならではのスタートになっていますよね。聴く人を最初にギュッとつかむ歌詞になっているので、そこを1人で歌うのか、2人で歌うのか、4人で歌うのかによって聴く方は全然変わりますし、4人で歌ったことで開かれる感じがすごく出たと思います。アニメ本編が終わったあとに流れるエンディングとして、『プリキュア』らしいキラッとするものが出せたかなと。
うちやえ あと、真由ちゃんが“そこにいる”、佳那子ちゃんが“そこにある”、私が“ここにいる”と歌っているところは、いわゆるDメロの「一番言いたいことを持ってくるところ」なんですけど、そこに(作詞の)只野(菜摘)さんがあえて“そこ”“ここ”という言葉を持ってきた、この感覚が素晴らしいと思いました。
五條 私もそのことをやえさんから聞いたとき、「あ、ホントだ」「すごい歌詞だな」と思いました。私が歌う“立ちむかっている”はプリキュアっぽいですし、自分としても歌いやすい歌詞なので気づかなかったんですけど、その強いワードの前に“そこにいる”“そこにある”“ここにいる”という言葉が入るのはすごいバランスですよね。
うちやえ 私も自分が“立ちむかっている”だったら気づかなかったと思います。でも、聴いていたらそれぞれが“そこ”や“ここ”に立っている気がして。「キュア・カルテットがここにいる」「私たちみんなが応援している」というイメージで歌いましたし、私たち4人もそれぞれに頑張ってきたという背景が見えるように歌うことを託されている気がしたんです。だから、ここはすごく力が入りますし、いつも歌いながら考えさせられる場所になっています。なかなか入れられない歌詞だと思いますし、感動しました。
五條 こういう歌詞は聴く側も考えさせられますし、聴くときの自分の状況によって捉える意味が変わってくると思います。
工藤 私もそこは歌いながら考えていました。しかも、そのあとに佳那子と二人で“正直ないのちが”と歌っていて。そこでも「“正直ないのち”ってなんだろう?」ってすごく考えました。でも、聴いているうちにだんだん自分の中に入ってきたんですよね。それに、うちやえさんと五條さんが歌っている“忘れないでね”がすごく『5』らしかったんですよ。のぞみちゃんたちが「忘れないでね」と言っているようで、「うん、忘れてないよ」って胸が締め付けられました。あと、うちやえさんが1人ずつ立っていると言っていましたけど、私も「久しぶりに帰ってきたよ。忘れないでね」という気持ちがありました。なんとなく、大切な人のことを想って聴いてもらえるといいな、と思いましたね。
宮本 私はその後の落ちサビで、1人ずつしっとりと歌い上げていくパートが好きなんです。キュア・カルテットってみんなが個性的で、歌詞カードの歌い分けを見なくても誰が歌っているかわかるんですよね。それは誰かが誰かに合わせるのではなく、みんながそれぞれに自立して、それぞれのシリーズの歌手だという思いを持って歌っているからだと思うんです。でも、みんな同じ方向を向いている、そして歌い継いでいく、というところがすごく感じられました。最後に4人で“一粒に始まる”と歌う部分もスタートを感じさせて、本当に好きなパートです。