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INTERVIEW

2017.11.21

『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」I.presage flower』音楽担当・梶浦由記インタビュー

『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」I.presage flower』音楽担当・梶浦由記インタビュー

現在大ヒット公開中の『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」I.presage flower』。ここでは本作の音楽と主題歌のプロデュースを担当した梶浦由記に、制作について話を聞く。発売中の「リスアニ!31」の『Fate』特集と合わせてぜひ読んでほしい。

――本作の音楽を作るにあたり、まずエンディングから取り掛かったとのことですが、Aimerさんが歌われた主題歌「花の唄」という楽曲については、どのような思いで作られましたか?

梶浦由記 まず打ち合わせで、Aimerさん側のスタッフとアニメ・スタッフとお会いして、どういう曲にしようかと話しましたね。その中で、須藤(友徳)監督や近藤(光)プロデューサーとも、「今回は(ヒロインの)桜の曲でしょう」という意見は一致していたのですが、特に「こういう曲で」という要望はなかったんです。Aimerさんのスタッフからも、「すべてお任せします。梶浦色に染めていただいて構いません」と言っていただけて。皆さんとても寛大で、言い換えれば、丸投げされた感じ(笑)。だからすごく自由に、自分のプランに従って書かせていただきました。歌詞は桜の気持ちを書いてみようと思ったんですが、彼女は今の段階では、何を想ってるのか、案外解りにくいんですよね。悲しいとか辛いとか、本音をまだほとんど見せない。なのでご覧になった方には、彼女にもう少しだけ思い入れをして欲しいなという気持ちがありました。なので、普段はあまりやらない事ですが、第1章の内容よりも少し先のところまで、桜の気持ちを言ってしまおうと。ちょっとした予告編のような歌詞を思い切って書いて、制作の方にもチェックしていただきました。そもそもこの曲はAimerさんの声を前提に書いていたのもあったのですが、Aimerさんの声で歌っていただくと考えたときに、もう少し深いところまで言葉にしてしまいたいという気持ちもありました(笑)。あの声で吐露してもらいたいというか。そういう欲もあって書いた歌詞なので、比較的饒舌すぎるエンディングになったかもしれません。

――純粋さや美しさがあるんですけど、その陰の部分まで描かれた歌詞だなと思っていて。それは今おっしゃられた「HF」第1章の後に描かれるであろう桜の生い立ちなども考えると、そういった情念的なものがのったメロディにAimerさんの歌声がのると、非常に掻き立てられるものがあるなと感じました。

梶浦 ほんとに素晴らしかったです。

――発売中の「リスアニ!Vol.31」では、Aimerさんにもこの曲のお話を伺っていますが、彼女自身もここまで女性の濃ゆい部分を歌ったことがなかったと話していて。梶浦さんに扉を開けてもらい、新しい自分を見せられたとおっしゃっていました。梶浦さんは、シンガーとしてAimerさんの魅力をどこに感じていますか?

梶浦 素晴らしく魅力的な声をしていらっしゃるのは勿論ですが、きちんと策略のある歌を歌うたれる方だなとも感じたんです。歌がどう心に響くかって、演出なんですよね。演出を音に乗せるテクニックはもちろん必要ですが、「その歌をどういうふうに聴かせるか」という意図がある歌じゃないと人の心には届きませんよね。テクニックがあっても演出に迷う方にはこちらで演出をつけてあげればいいし、逆に、演出力が始めからある方には、こちらで余計な事を言っても邪魔するだけなので、全部お任せした方がいいと思っています。演出プランの邪魔にならないところで、提案はしますけどね。「花の唄」はAimerさんにお任せして、Aimerさんの演出プランで聴かせていただきたいなと思ったので、レコーディングでも本当にただ聴き惚れていました(笑)。

――あとは用意されていた楽曲のエモーショナルさを、彼女なりの表現で膨らませているというか。より奥行きみたいなものを表現できたからこその説得力がありますね。

梶浦 あとはAimerさんのブレス。ブレスも歌の一部で、非常に気持ち良くリズムの後押しをしてくれる方なので、聴かせたくて。サビのあとで同じフレーズを繰り返すところがあるんですけど、そこはメロディーのフレーズをその前に比べて短く、若干せわしなくして、敢えてAimerさんのブレスが多めに入るように作りました。歌詞も少し本音に近い言葉を入れ込んで、音程は低めに抑えて若干呟くように、でも歌詞とAimerさんのブレスが相まってより気持ちが迫ってくるというか、切迫感を生むというか、そんなふうにしたかったんです。そして最後はAimerさんの声の余韻をしっかり味わっていただくために歌をほぼ素にしようと。そのうえで、「舞台と装置を作りましたから、あとは聴かせてくださいね」って感じですね。

――そのED主題歌の先に劇伴があるかと思うのですが、「花の唄」のメロディが使われた曲もありましたね。

梶浦 エンディングを書くときに、ufotableの方からエンディングのメロディを本編にも取り入れてほしいというお話がありまして。普段そういうときは、BGMに使うことも併せて考えながら歌のメロディを作るんです。例えば私がプロデュースしているKalafinaは、比較的弦で弾くような歌フレーズが合うんですよ。だからBGMでも主に弦で奏でることを前提に、同時進行で作れるんですが、Aimerさんのお声には弦メロじゃないなと。なので「花の唄」は、Aimerさんの声を前提に、あとからこのメロをどう使うかはいっさい考えずに書いて、BGMとしてどう使うかは、あとから考えました。結果、始めのメロディはエレピだな、とか、Bメロは比較的歌っているから弦だなとか、いろいろな手法で劇伴に入れ込んでいます。あまり気付いてもらえないかもしれないのですが、もともと4/4(拍子)だったのを3/4にして、かなりクレイジーな感じにしたサビのメロディをオープニングで歌っていたりとか。サブリミナル的に、多くの場面で「花の唄」のメロディは流れているので、ご覧になる方には無意識に歌のメロディがどこかしら染み込んでいるんじゃないかと思います。だからエンディングで歌が始まったときに、ある程度入りやすいのかなという気はしています。

――ある意味、桜を象徴するメロディでもあると思うので、それが作品の随所に出てくることによって、何の作品かということがおのずと音楽からも見えてくる仕掛けになっているなと思いました。

梶浦 そうなっているとうれしいですね。

――でも聴いていて、とにかく今回の劇伴は前半の朗らかな音楽以外は、不安を煽ったり不穏にさせるものがずっと通底していて。

梶浦 ほんとにそうですね(笑)。冒頭の30分はほとんどBGMを入れていなくて、スタッフクレジットが出るあたりから音楽ががっつり入ってくる。ストーリーに合わせて、後半にはそういう曲がほとんどになっていますね。

――もともとそういうオーダーだったんですか?

梶浦 冒頭30分に音は付けないというのは最初の打ち合わせから聞いていました。後半に入るところでガラッと景色は変えたいということで。その落差もいい効果になっていると思います。また過去のシーンで『Fate/Zero』の音楽使った方がいいかと提案したところ、「使ったほうがわかりやすくていいと思います」と言われたので、そこからわかりやすく『Fate/Zero』のテーマを流させていただいたりもしています。

――そういった演出や見せ方を受けての劇伴作りだったんですね。

梶浦 そうですね。とにかくいつもの『Fate』と違っていたのは「会話」で。今回の桜と士郎の会話というのは、なんというか会話のようでどこかしら噛み合っていないというか。互いの気持ちを思いやる余裕がまだ無いような、「私の気持ち」なんですよね。そのあたりどこかしら着地点のないような落ち着かない雰囲気も出したかったですし、あとは大事なセリフをちゃんと聞かせること。感情の揺れはきちんと出したかったので、地味なようで実は派手に作ってます。

――ちゃんと見ている側の感情がぐっと盛り上がるように。

梶浦 「先輩、お帰りなさい」って言うところも、間を空けて、「お帰りなさい」って言ったとたんに桜のメロディを流すとか。そういう、すごくありきたりではありますがやらなければいけない事というか、セリフを聴いてもらうために必要だと思う曲は、かなり細かく書いています。

――今回はフィルムスコアだったそうですが、だからこそできることでもありますね。

梶浦 そうですね。バトルシーンもそうなんですけど、特に会話劇の音楽では、大事なセリフを聴かせるために間を作るには大切なので、セリフも入ったフィルムスコアリングがいちばんやりやすいんです。基本、私は最後のミックスまでセリフをずっと出しっぱなしで。ミックス前に曲がそのシーンとして出来上がって初めてセリフを消して、音だけのチェックをするんです。セリフありきで作っているので、タイミングがずれて、そこに音が流れないときの違和感はハンパないですね(笑)。

――実際に音楽と映像って別作業ですけど、観客は合わさったもので観ますからね。

梶浦 だからその方が作り甲斐もありますし、逆にセリフを消して音楽を作っちゃうと、あとで効果的にセリフの入るところで音を抜くとかって絶対できないんですよね。そんな地獄の苦しみを味わうなら初めからセリフを出して作った方がストレスもないし楽しいですよね。一緒にセリフ言ったりして。「このすなむしが!」って(笑)。

――何度も観るわけですからね。それは劇伴音楽家の皆さんの楽しみのひとつかもしれません。

梶浦 さすがに1ヶ月くらいたつと忘れますけど、終わった直後はほとんどセリフも覚えているので、ひとり『Fate』ができます(笑)。

――本作の劇伴を作るうえで、やはりヒロインである桜の存在が常に大きかったかと思うのですが、彼女について、梶浦さんはどのような印象をお持ちですか?

梶浦 正直に言うと、この作品で好きになりました。だって、これまではちょっと得体の知れないところがあって。ものすごく押しが強いじゃないですか?先輩である士郎の家にずっと押しかけていて。友達だったら、「あなた大丈夫?」って言いたくなるタイプで(笑)。かわいそうではあるけど、感情移入するにはちょっと難しいタイプだなと思っていたんです。でもこの作品では、最初に中学時代からの桜をすごくていねいに描いていて、これなら士郎も愛しくなるだろうとか、ほんとはただ単純に救いの場所を求めてきて、この人はほんとに士郎が好きなんだろうなとか。そういうふたりの歴史をちゃんと冒頭で描いてくれたことで、すごく彼女に思い入れがしやすくなって。自然に、「彼女はこの場所を失いたくないんだろうな」って思えるんですよね。彼女を守ってあげたいと思う彼の気持ちに何の違和感もなく入っていけて、幸せにならなきゃって気持ちになっちゃう。それがいいなって思いましたね。

――女性からすると、今回の「HF」で桜にやっと好きになれるポイントができたというか。

梶浦 私は制作に関わっているので、作っているときから「やべぇ、桜かわいい」って思っていたんですけど(笑)、初めて劇場で「HF」をご覧になった方も、今回の桜はかわいくて、かわいそうで。素直に応援したいと思ってくれるんじゃないかと思います。

Interview By 冨田明宏 Text By リスアニ!編集部


●作品情報
『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」I.presage flower』

全国公開中

【スタッフ】
原作:奈須きのこ/TYPE-MOON
キャラクター原案:武内崇
監督:須藤友徳
キャラクターデザイン:須藤友徳・碇谷敦・田畑壽之
脚本:桧山彬(ufotable)
美術監督:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:松岡美佳
編集:神野学
音楽:梶浦由記
主題歌:Aimer「花の唄」
制作プロデューサー:近藤光
アニメーション制作:ufotable
配給:アニプレックス

【キャスト】
衛宮士郎:杉山紀彰
間桐 桜:下屋則子
間桐慎二:神谷浩史
セイバー:川澄綾子
遠坂 凛:植田佳奈
藤村大河:伊藤美紀
言峰綺礼:中田譲治
間桐臓硯:津嘉山正種
美綴綾子:水沢史絵
柳洞一成:真殿光昭
衛宮切嗣:小山力也
ランサー:神奈延年
ギルガメッシュ:関智一
ライダー:浅川悠
アサシン:三木眞一郎
キャスター:田中敦子
アーチャー:諏訪部順一
葛木宗一郎:てらそままさき
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン:門脇舞以
セラ:七緒はるひ
リーゼリット:宮川美保
真アサシン:稲田徹

©TYPE-MOON・ufotable・FSNPC

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