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REPORT

2026.10.01

楠木ともりと過ごす濃密で贅沢なひと時――自身初のビルボードライブ公演「Tomori Kusunoki Billboard Live“LESS is MORE”」を振り返る

楠木ともりと過ごす濃密で贅沢なひと時――自身初のビルボードライブ公演「Tomori Kusunoki Billboard Live“LESS is MORE”」を振り返る

いつもとは違った装いの、いつもよりも親密で贅沢なひと時。9月6日、神奈川・Billboard Live YOKOHAMAで開催された、楠木ともりによる初のビルボードライブ公演「Tomori Kusunoki Billboard Live“LESS is MORE”」は、その時間を体験したすべての人にとって特別なライブになったはずだ。エレガントな空間とリッチな演奏が引き立てる、繊細な声の表現。ここでは昼夜2公演のうち、1stステージの模様をお届けする。

PHOTOGRAPHY BY 新家菜々子
TEXT BY 北野 創

アコースティックアレンジで新たに生まれ変わった楽曲たち

改めて説明すると、ビルボードライブとは、本格的な料理やドリンクと共に音楽ステージを楽しむことができる“世界標準のライブレストラン”。ジャズからポップスまで国内外の様々なアーティストが出演しており、近年は花澤香菜やKISHOW from GRANRODEO(谷山紀章)など声優・役者業と音楽の両軸で活躍するアーティストが出演する機会も多い。本公演では、限定オリジナルメニューとしてコラボカクテル「Reverie Verte(レヴェリー・@;ヴェルト)」や「コーヒーゼリーとマスカルポーネのパフェ」が提供され、観客は各々のシートで食事を楽しみながら開演前の時間をゆったりと過ごしていた。

やがてフルートなどを交えた幽玄なSEが会場の空気を静かに塗り替えると、この日の演奏メンバーである、菊池真義(g/バンドマスター)、勝矢 匠(b)、高尾俊行(ds)、幡宮航太(pf)が入場。全員、黒の衣装で統一してシックな出で立ちだ。そして主役の楠木が拍手に包まれながらステージに登壇。モスグリーンのカジュアルな衣装におでこを出してフォーマルにまとめた髪型の彼女がマイクスタンド前に立つと、幡宮のグランドピアノが紡ぐ穏やかな旋律を皮切りに「sketchbook」でライブの幕が開ける。インディーズ時代から歌詞を改めながら歌い継いできた本楽曲、“窓の外”に広がるまだ見ぬ世界への興味と、これから描いていく“景色”を偽りのものにしたくないという、クリエイティブや活動に対する根源の思い、そして自分らしくあり続けたいと願う気持ちが詩的な言葉の中に息づいており、彼女はウィスパー系の儚く揺れる歌声でそれをしっとりと表現していく。終盤のフェイクにおける静かに降り注ぐような声の粒立ちの素晴らしさは、音響的にも優れた本会場ならではのものだった。

声とアコースティック編成のサウンドが織り成す極上のアンビエンス空間から一転、菊池がアコギからエレキギターに持ち替えると、ジャズコンボ感溢れるアレンジでスウィンギーに聴かせたのが「よりみち」。4ビートの軽やかに踊る演奏に誘われて、楠木のボーカルも跳ねるようにステップを踏んでグルーヴを形成していく。何より驚かされたのは後半の間奏パート。楠木が足元に置かれたケースから取り出したのはなんとトランペット。バンドの演奏に合わせてアドリブ的なフレージングも交えながらたっぷりとソロを吹き、会場をジャズの色に染め上げていく。学生時代には吹奏楽部に所属、事務所プロフィールの特技の欄にも「トランペット」を挙げている彼女ならではのサプライズでファンを喜ばせていた。

MCで「念願のビルボードライブ」と喜んでみんなと乾杯をした彼女は、「今回は落ち着いてゆったりとした、まどろむような時間を過ごしていただけたらと思います」と挨拶して次曲「ハミダシモノ」へ。原曲はアグレッシブなバンドサウンドで知られるが、今回はピアノと歌のみの一対一のスタイル。ゆったりとした演奏に乗せて伸びやかに声を泳がせる1番を経て、よりリズミカルに躍動する2番、そこからさらにエモーションを増していくラスサビと、白を基調に一瞬赤色を灯らせた照明の演出も込みで、いつもとは異なる「ハミダシモノ」の姿がそこにはあった。続く「遣らずの雨」も原曲からテンポをかなり落としたアコースティックアレンジ。普段のライブであれば“どしゃ降り”と形容したくなる激しさが常だが、この日は静かに粛々と降り続ける雨のよう。しかしながら、徐々に感情を高ぶらせていく楠木の歌声とそれに呼応するように熱を帯びていくアンサンブルの描き出す光景は、やはり深い激情を感じさせるものだった。

こうして全編アコースティック編成の公演を行うのは、2020年にメジャーデビューして以降初めてだが、インディーズ時代の初ステージはアコースティックライブであり、実は自分にとってルーツでもあると語る楠木。本公演のタイトル「LESS is MORE」は、建築業界における「少ないほど豊か」というデザイン思想を指す言葉から引用したもので、楠木自身、音楽でそれを感じることが多く、いつもよりも音を削ぎ落として趣向を変えたアレンジで楽曲の新しい一面を楽しんでほしいという想いを込めて、公演タイトルを決めたと説明する。

「この後も、おそらくイントロではわからないのではないかという曲が続々と飛び出すと思います」と語って会場の期待をさらに高めた彼女は、続いて自身がフィーチャリング歌唱で参加したMIMiNARIの楽曲「眠れない feat. 楠木ともり」を披露。カホン系のパーカッションとリズミカルなピアノを軸としたシンプルなアンサンブルから、サビでエレキギターとウッドベースが加わって一気に鮮やかさを増すサウンドの波を、楠木は彼女特有の柔らかく芯のあるウィスパーボイスを駆使してサーフしていく。その声の旨味をたっぷり味わえたのが「twelve」。マイクと会場の反響によって増幅された歌声に包まれるような感覚が心地良い。繊細にしてふくよかな、楠木ともりのささやくような歌唱アプローチの真髄が存分に発揮されていた。

次のページ:ルーツとリスペクトを込めたカバー、その歌で示した自身の“強さ”

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