8月26日にナナヲアカリのニューシングル「ボーイゼンガールズ / ∞劣等星」がリリースされる。2曲それぞれが”ボートレース2026″CMソングと、TVアニメ『黒猫と魔女の教室』第2クールOPテーマのWタイアップとなる本作。劣等感に立ち向かうナナヲアカリ流の応援歌について、彼女に話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 青木佑磨(学園祭学園)
――「ボーイゼンガールズ」はドラマ仕立てに制作された“ボートレース2026”CMソングということですが、こちらはどのような経緯で制作された楽曲なのでしょうか?
ナナヲアカリ ボートレースとナナヲアカリの接点って浮かばない方が多いと思うんです。普段はアニメの曲をたくさん歌わせていただいていて、そちらのイメージが強いんじゃないかと。CMソングのお話をいただいたとき、ナナヲ自身も「ナナヲアカリで歌えるボートレースの曲とは?」と少し考えてしまって、自分の中でどういう共通項があるか悩みどころでした。ただ今回のCMの大きいテーマとして「ゼロからプロへ」というキャッチコピーがあって、それはすごく自分の中でもストンと腑に落ちたんです。自分も歌手になるための学校に通っていたわけでもないですし、周りに歌や楽器を教えてくれる人がいたわけでもなく、完全なるゼロの状態からメジャーデビューしてこうして7年活動を続けてこられたので。そういう気持ちが「ゼロからプロへ」という言葉に凝縮されていると思っていて、誰しもが何かを始めるときってゼロからじゃないですか。当たり前のことなんですけど、人生続けていると気づかなくなってくるというか。常に自分にも他人にも何かしらのベースがあったと思ってしまいがちだけど、すべての人が何かを始めるときにはゼロからなんだっていう。自分を含めそういう人が小さな一歩を踏み出すための歌を作ると決めたら、今回のボートレースとナナヲアカリの共通点が見い出せて表現できるんじゃないかなと思いました。
――なぜナナヲさんに依頼が来たか、という話は聞かれましたか?
ナナヲ なぜ、という部分は正直伺ってないですね。でも「明日の私に幸あれ」のきっかけもきっとあったと思うんです。あの曲はライフソングでありながら、毎日を、明日を、生きるために頑張っている人の背中を結果的に押している曲になったので。それは世間がそうしてくれた部分でもあるんですが、そういうイメージもあってもしかしたら「この人なら歌えるんじゃないか」と思ってもらえたのかなって勝手には思っています。
――先方から楽曲の方向性のオーダーはあったんでしょうか。
ナナヲ まだ世に出ていないストック曲という、1コーラスだけ作ってある曲が結構あるんです。既存曲やそのストック曲の中から疾走感のあるものを先方に送ったら、ストックの中の1曲をすごく気に入ってもらえて。「この曲の疾走感を担保したまま、新しい楽曲を作ってほしい」というオーダーをいただきました。
――なるほど。「例えばこんな曲ができますよ」というサンプルを提示したような形になるんですね。
ナナヲ そうですね。先方が望んでいるのがかっこいいギターロックなのか、爽やかなものなのか、かわいい要素が欲しいのか、それがわかるようにいくつか投げさせてもらって。選ばれたのは爽やかなギターロックの方向性でした。
――そのストックの1コーラスをフルに仕上げるのではなく、方向性を汲みつつ別の曲を制作することになったと。
ナナヲ そうなりました。今までのナナヲアカリの楽曲はボカロPさんにプロデュースしてもらうことが多かったんですが、今回はボートレースというまったく違うフィールドの曲というのもあって、これまでご一緒する機会のなかったラインの作家さんと制作したいと思いました。その流れでHayato Yamamoto(山本隼人)さんとKanata Okajima(岡嶋かな多)さんを紹介していただきました。
――邦楽のヒット曲からK-POPに至るまでかなり幅広くお仕事をされているお二人ですよね。
ナナヲ あの曲もこの曲も書かれている方なんだ!と思い、ぜひご一緒したいとお願いしましたね。作編曲はお二人の共作で、作詞に関しては私も参加していて本当に初めてのコライト感でした。これまでも共作詞をすることはあったんですけど、こんな一行ごとに変わるようなコライトは初めてだったのですごく新鮮でした。
――作家陣が定まったうえで、どのようなオーダーで制作を依頼したんでしょうか。
ナナヲ まずはストック曲を聴いてもらいつつ、夏のリリースになるのでライブやフェスがイメージしやすい曲が良いなと思って。ボートレースのCMソングはTVをはじめ、YouTubeやラジオでも流れたりするので、アニメのスポットよりもさらに知らない人の耳に届くと思うんです。ナナヲアカリは知らなくてもなんとなく曲を聴いたことがあるっていう人が増えると思うので、フェスやライブで「聴いたことある!」となってほしいし“ライブ映えする曲”というのも大事にしたいなと。なので「ライブしている姿が見えるような曲が良いです」というオーダーをさせていただきました。それで生まれたのが終盤のシンガロングのパートだったりするんです。
――CMがドラマ仕立てというのも事前に聞いていたんですか?
ナナヲ はい。伺ってました。今回はプロの選手のお話ではなくて、養成所のお話なんですよ。発展途上の子たちがメインでそれもまた良いなと。教官も養成所生もみんな手探りの状態で、そこからプロになっていくっていうストーリーなので、私らしいと思いました。今まで歌ってきたことにリンクするドラマだったので良かったですね。
――実際の制作過程はいかがでしたか?
ナナヲ 初稿からもうサウンド感はバッチリでした。ただ初めてご一緒するということもあって、歌詞が最初は割とがむしゃらな応援歌の側面が強かったんですよ。それで「ナナヲアカリのイメージはこういうものです」とお伝えして(笑)。一緒にコライトしていく形になりました。
――完成した楽曲を聴いていると本当に絶妙なバランスで成立していますよね。これまでのナナヲさんを知っていればいるほど「真っ直ぐな応援歌」は難しいラインですし。
ナナヲ そうなんです。応援歌然としていなくてはならないんですけど、真っ直ぐすぎると私らしくないものになるし私が歌えなくなってしまうから。そこはちゃんと葛藤と劣等感を抱いている主人公像なのが感じられるように。スッと聴くと真っ直ぐな応援歌なんですけど、要所要所で「これは私のことも歌っているんだ」って思ってもらえるような言い回しは意識しました。
――100パーセント真っ直ぐな応援歌はもう世の中にあって、リスナーとしてはその曲がカバーできていない人たちにも向けたものをナナヲさんには歌っていてほしいといいますか。
ナナヲ そうですね。2番以降は色々と書かせてもらったり、逆に本当に一言だけ「ここだけ変えさせてください!」って書いた部分もあったり。
――具体的にはどんな部分を変えていったんでしょうか?
ナナヲ 例えば1Bの「壁の先にまた壁」のあとにはもっと強い言葉が置いてあったりしたので、そこの歌詞については、アイデアを出しつつリライトの相談をしました。
――確かに「壁の先にまた壁」自体は誰しも起こりうるシチュエーションで、それに対してどうするかをナナヲさんなりにリライトしていったと。
ナナヲ 今までの自分だったら「目を逸らして」で終わりだったんですけど(笑)。そこは一歩踏み出すために「目を逸らすのはやめて」っていう言い聞かせに変えさせてもらいました。
――ご自身的に特に「ここは自分っぽいな」と思えるのはどういった部分なんでしょうか?
ナナヲ サビの“ゼロから ちっちゃな一歩踏み出せ”ですね。最初はもっと快活だったんですが、私は小さくさせてもらいました。大きくはまだ無理だし、どんなに小さな一歩でもいいからって思うので。それを力強く歌うのがすごくストンと来るし私らしいかなと。
――主人公自身が小さな一歩を踏み出すためのAメロから始まりますが、サビの「ボーイゼンガールズ」という言葉は同じ境遇の誰かへの呼び掛けになっていますよね。この辺りの感覚はご自身的にいかがでしょうか。
ナナヲ 7年活動してきての自分の気持ちの変化もあるんですが、巻き込んでいきたいと思うんです。自分事だけ歌っていたら伝わらないこともたくさんあるんだって思ったところもあって。なおかつこの曲はライブをすごく意識した曲なので、聴いてくれている人にも自分事になってほしい。だから自信はないけど巻き込んでいきたいんです。裏表の相反する感情が乗った呼びかけになりました。(山本)隼人さんと(岡嶋)かな多さんから出てきた引き出しなので、自分だけだったらこんなに呼びかけることはできなかったと思うんです。すごく背中を押してもらいました。
――CMの舞台はボートレーサーの養成所ですが、部活を頑張っている方や受験生にも届きそうな呼びかけですよね。
ナナヲ そうですね、まさしくその時期の方たちにも聴いてほしいです。もちろん新社会人や悩んでいる人すべてに聴いてほしいんですけど、自分が一番そういう言葉を求めていたのって10代の頃だった気もするので。そういう気持ちは完成してから芽生えましたね。自分も単純な応援歌はあまり聴かなかったんですけど、でも「この曲そんなに好きじゃなかったけど、ライブで聴いたらめっちゃ楽しい」みたいなことも経験してきたので、そういう立ち位置でも良いなと思うんです。自分が聴いていた好きなアーティストが、こうして自分事にして巻き込んでくれるのって嬉しかったし。聴いているだけだとあまり良さがわからなくても、みんなで一体になったときに意味がわかる曲になるのかもしれません。色んな楽しみ方、色んな解釈をしてもらえるのかなって。
――「巻き込む」「呼びかける」ができるようになってきたのは、7年の積み重ねもあってのことなんでしょうか。
ナナヲ そうですね、積み重ね。色んな人と出会ったり、各地で待ってくれているファンの方たちに会いに行ったりした時に、やっぱり閉じ籠ってるだけじゃだめだって年々大きくなってきて。自分だけの視点に閉じ籠っていたら、じゃあなんのために曲を作るんだ、なんのために色んなところでライブをするんだって思うし。当時だったら「歌いたいからやるだけだ!」って思っていたんですけど、今は「ちゃんと届かないと続けられない」っていう当たり前のこともわかってきて。じゃあ続けるためには誰に届かないといけないか、というのも考えるようになって。気持ち的な部分もあるんですけど、普通にそういうふうに考えることが楽しいフェーズにもなってきたと思います。どうしたらよりみんなが楽しんでくれるか、なおかつ自分が納得して自分も楽しいか。それを探すのが楽しい時期になってきたからこそ、より「巻き込んでいきたい」という気持ちが強くなっているんだと思います。
――楽しめているのは素晴らしいですね。キャリアを重ねることでやれることが増えて強くなっていく自分と、ナナヲさんを求めているリスナーが欲している言葉がやがて食い違ってしまう可能性もあると思うんです。でも「ボーイゼンガールズ」が応援歌でありながらもナナヲアカリ的であるという絶妙なバランスで成立しているので、聴き手としても安心できました。その辺りの乖離はご本人的にはまだ全然感じないですか?
ナナヲ 仰ってくれた通り「ボーイゼンガールズ」はナナヲらしい楽曲に仕上がったと思うので、乖離は今のところないですね。でもこれから先に楽曲が届き切ったときに、ナナヲアカリの曲をこれまで聴いてくれていた人がどう思うかはまだわからないので、そこはドキドキなんですけど。ちゃんと読み込んでもらえれば「どこにも行ってないよ」ということは伝わるんじゃないかなとは思います。
――根本的な「発信したいもの」もあまり変わっていないんでしょうか。
ナナヲ そうですね、根本は変わってないです。劣等感から来る感情をベースに、それがどういうふうに自分を動かすのか。誰を動かす曲を作るのか。基本は劣等感から出来ている人間なので、変わることは余程のことがない限りないんじゃないですかね。
――昔より届けるべき照準が明確になったり、先鋭化されたりはしていますか?
ナナヲ いや、逆に広がった感じですね。ずっと「この気持ちがわかる人だけに届けばいいんだ」って思っていたところから、たくさんの人にも必ずそういう部分があるんじゃないかと気づいて。強く見える人にも弱い部分があるんだったら、その人まで届くものにしようという感じです。
――楽曲制作の話に戻りまして、完成に至るまでに難航した部分などはありますか?
ナナヲ 本当に歌詞のニュアンスで難航しただけで、決まってからはすごくスムーズに。同じ方向を見ることができたのでめっちゃ早かったです。ボーカルレコーディングも事前にしっかり練習したので問題なく、歌っていて気づいたのは気持ちが良い曲だなってことですね。「昨日までの自分じゃない」でロングトーンを伸ばしているところで「ボーイゼンガールズ」のシンガロングが聴こえてきたり、今までの自分の曲にはなかった気持ち良さなんですよ。「楽しい!」みたいなテンションで歌いました。
――ボカロPないしインターネットカルチャー出身の作家さんと比べて、楽曲に中毒性よりフィジカルの快感性が高いのはあるかもしれません。
ナナヲ そう!自分が「気持ち良い応援歌」を聴いてこなかったので、同じような好み人にも聴いてもらえるバランスは結構チャレンジだったかもしれません。あとはとにかく歌っていて気持ち良いんですよ。リハや練習で「今日そこまでテンション上がらないんだよな」と思うような日でも、歌い始めると楽しくなってるみたいな力がある曲でした。
――完成した楽曲を聴いてみて、ご自身的にお気に入りのポイントなどは?
ナナヲ 個人的にこれは癖(へき)なんで人によると思うんですけど、やっぱりサビ中転調。サビの中の結構短いところで転調していくので、音楽好きな友達とかに聴かせると「うぇ!?何これ!!」みたいに喜んでくれるんじゃないかと(笑)。このスピード感で元々キーが高いところからさらに転調していくっていうのは、ネットカルチャー側の人も音楽好きな人も面白がれるようなものになったんじゃないかと思います。
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