夏川椎菜は戦い、愛を歌う――8thシングル「シャドウボクサー」リリースインタビュー

音に奉仕して働くダンスミュージック

――ではカップリング曲「労働奉音」についてもお聞きしましょう。これは「シャドウボクサー」があったうえで作られたんですか？

夏川　そうですね。この曲は「ケーブルモンスター」ツアーが終わってすぐくらいに発注して、スピード勝負みたいな感じでした。「シャドウボクサー」はツアー中に田淵さんにフルを発注して歌詞も書いてたんですけど、「労働奉音」は完全にツアーが終わってからゼロから作るみたいな感じで。

――こんな曲がやりたいって希望があったんですか？

夏川　明確に「この曲」っていうリファレンスがありました。「ケーブルモンスター」ツアーの開場中のBGMで流してた曲なんですけど、どの会場でもその曲が始まった瞬間にどこからともなくみんながクラップを始めて、その光景がすごく素敵だなと思って。その曲自体は独特なヘビーさがあって、私の楽曲にはないタイプですけど、でもそんなに遠くもないし、いずれやるだろうみたいな感覚だったので、だったら気持ちがホットな今やりたいなと思って、カップリング曲どうするかって話になったときに、「あの曲みたいなやつやりたいです」って。その曲をリファレンスにして、川崎智哉さんなら書いてくれるんじゃないかと。なので川崎さんは第一指名です。これまでも「トオボエ」の編曲や、「羊たちが沈黙」を作ってくださって、あの太めの低音ビリビリ系のサウンドが想像ができたので、川崎さんならきっと私の望むものを書いてくださるんじゃないかと思って。

――非常にシンプルな曲ですよね。基本的には同じフレーズのリフレインだし、「シャドウボクサー」がギチギチに詰め込まれてるぶん、このルーズさというか、サウンド的にはかなりソリッドですけど、自然にノルだけで気持ちよくなれる。

夏川　まさしくそういう曲を目指して作りました。ライブ直後だったのもあって、頭の中にヒヨコ労働組合サウンドがずっと鳴ってたので、せっかくこういう方向性の曲だし歌詞にはヒヨコ労働組合オマージュを含ませました。

――前におっしゃっていた、みんなが何も考えず踊れるようなライブにしたいという気持ちを感じます。

夏川　その気持ちは「労働奉音」に限らず常に持ってます。明確に「この曲はコールやってほしいよ」って言う時もあるんですけど、それも絶対じゃなくて、自分自身の楽しみ方でいいんです。レギュレーションの範囲内で、みんな好きなように夏川の音楽を楽しんでくれたらいいなってずっと思ってるんですけど、「労働奉音」に関しては「とりあえず低音を爆音で提供するんで、あとご自由にお楽しみください」って感じですね。

――歌詞も近いことを言っていますね。素直にその場で表現されてる音楽を楽しもうよって曲は今まであまりなかったんじゃないですか。

夏川　そうですね。この曲は気持ちとかより情景をずっと歌ってるんですよ。「これが我々ヒヨコ労働組合とやるライブです」っていう情景をこの曲を通して提供してる感じですね。

――この曲には外側から見た時の夏川さんらしさ、メッセージ的なものはあんまりないですよね。作詞はいかがでしたか？

夏川　この曲はヒヨコ労働組合を意識して書くという大前提があって言葉を選んでいったので、そんなに違和感はなかったですし、いつもとの違いもあまり感じませんでした。なんならちょっとふざけてましたね（笑）。いかにダブルミーニングを入れるかを楽しんでたところはあります。本当はサビとかは全部同じ歌詞でもいいかなぐらいに思ってたんですが、さすがに同じ歌詞を繰り返すと展開がなさすぎて、耳が飽きちゃうなって思ったので変えたんですけど、意味は変えずにリズム感だけちょっと変わるぐらいでいいなと思って。

――情報量が増え過ぎないというか。

夏川　そうですそうです。どっちかというとこの曲は音に集中して欲しくて、歌詞の意味とかメッセージよりも、韻を踏む気持ちよさや、メロを口ずさんだ時の気持ち良さを優先しましたね。

――2曲のボーカルレコーディングはいかがでしたか？「シャドウボクサー」は大変だったと思いますが。

夏川　大変ですけど、多分皆さんが思っているほどは大変じゃなかったくらいの感じです。でもこの早口の部分は物理的に私にしか歌えないんじゃないかとは思っていますね（笑）。このAメロが来た時には「悪ふざけだ！」と思いましたし。ある意味田淵さんの挑戦状なのかもと思って受けて立ちましたけど。私は滑舌は多少回る方なので、速さで苦労することはあまりないんですけど、でもその中でも言いやすい言葉の組み合わせはあるので、早口言葉も自分が歌いやすいノリは出したいと思って歌詞も書いていました。

――これライブでやるんですよね？

夏川　そうっすね……（笑）。でも私レコーディングの時もほとんどの曲でAメロから1サビ終わりぐらいまで通して歌って録ってるんです。

――あまりブロックで分け過ぎないと。

夏川　そうです。パートごとに区切って録っていくやり方を否定する気は全くないんですけど、私は一気に全部録っちゃった方がライブを想像しながら歌えるので、結果的に無理のないものができるんです。あとAメロから繋げて歌うサビの力の入り方と、サビだけを歌った時の力の入り方って全然違って、そこで嘘をつきたくないので、極力一連で歌うようにしています。この曲もそうやって録ったので、一応ライブでもまあできるだろうって目算はあります。

――「労働奉音」の方はいかがでした？

夏川　こっちはもう方向性とかがある程度チームと私の中で固まってたので、そんなに苦労せず録れました。「労働奉音」の歌い方は、私がライブの終盤とかに疲れてきて出ちゃう歌声を意図的に出してるんです。

――それってめちゃくちゃ難しくないですか？しかもレコーディングスタジオで。

夏川　私もそう思ってたんですよ。あの雰囲気出るかなって心配してたんですけど、サウンドのおかげなのか、録ってみたらそこまで苦労しませんでした。ライブからレコーディングまであまり間を開けなかったのも大きいかもしれません。

今年はどうなる「417の日」

――このインタビューは4月17日の「令和6年度 417の日」開催当日に公開されるということで、ネタバレしない範囲で、どんな気分でイベントの準備をされてますか？

夏川　もうニヤニヤが止まらないです。私は昔からみんなが幸せになるサプライズとかドッキリが大好きなんですけど、それと同じ気持ちですね。ニヤニヤっていうかニチャニチャですね。ちょうどこのインタビューのタイミングではイベントロゴとかグッズが発表されてるんですけど、みんながざわついてるのが分かるんですよ。そういう光景を見てずっとニチャニチャしてます。

――ちなみにお客さんは内容を予測できると思います？

夏川　どうかなあ？さすがにピッタリ当てるのは無理なんじゃないですかね。

――ロゴを見て、ああ謎解きなのねって想像した内容ではないと思っていい？

夏川　そうですね。なにしろサプライズなので、あんまり予想されちゃうとイヤなんですよね。軽い気持ちで「まあ417Pが出るんでしょ？謎解きやるんでしょ？」ぐらいの感じで来てもらったほうが私的にはニチャニチャ度が上がるので。

――あんまり身構えすぎない方がいいと。

夏川　言えることとしては毎年「417の日」って、それまでの夏川さんを取り巻く環境のあれこれをふまえて「今年の夏川さんはこんなことやりますよ」って見せる日なので、それこそ舞台を始めてやった年はちょっと舞台チックなことをやったし、“ミュージックレインフェスティバル”が中止になった年には一人フェスをやったりとか、今年もそういう流れは汲んでるんです。うちの事務所が先日マーダーミステリーのイベントをやったんですけど、そこを汲んでミステリー的な要素を持ってきたりして、そのうえで今年度の夏川さんも変わらずみなさんをドキドキとワクワクの渦に叩き込んでやるぜっていう宣戦布告みたいなイベントなので、存分に夏川の企みにワクワクしてもらいたいなと。もうコアなというか、本当にあの、私の信奉者しか来ないと思ってるので（笑）。

――「夏川さんの音楽素敵だから、ちょっとライブ行ってみようかな」って見に来るイベントじゃない（笑）。

夏川　じゃないです。もう夏川椎菜という人間が考えてることが好きで好きでたまらない人が、平日に有休を使って来るイベントなんですよ（笑）。

――サプライズし甲斐がありますね（笑）。

夏川　私もそういう人たちに対して「みんなこういうの好きやろ？」ってニヤニヤしながら見せるイベントなので、夏川さんが好きで好きでたまらない人はバッチリ楽しめるし、こんな謎のイベントに、参加を決めてくれた新参ヒヨコたちにも「夏川さんって愉快な人だな」って思ってもらえたら嬉しいです。

●リリース情報
「シャドウボクサー」
4月17日発売

【初回生産限定盤（CD+BD）】

品番：SMCL-886～887
価格：￥2,300（税込）