【インタビュー】cadode 、TVアニメ『サマータイムレンダ』EDテーマ「回夏」で初のアニメタイアップを担当――“廃墟系”と“セカイ系”、様々な二面性が内在しているcadodeの世界観に迫る

F.M.F所属のクリエイターとしてアニメ音楽を中心に幅広く活躍するコンポーザーのeba、彼との出会いをきっかけに会社員を辞めて音楽活動を始めたボーカリストのkoshi、マネージャー兼メンバーの谷原 亮による音楽ユニット、cadode。2018年に本格始動して以来、モダンかつジャンルレスなサウンドメイクと詩情と思索に富んだ詞世界、koshiの独特の魅力を持った歌声で支持を集めてきた彼らが、TVアニメ『サマータイムレンダ』のEDテーマ「回夏」で初のアニメタイアップを担当する。あまりにも作品世界にマッチしたそのニューシングルの話題を中心に、cadodeの本質に迫る。

“廃墟系”と“セカイ系”――cadodeを紐解くための2つのキーワード

――cadodeは“廃墟系ポップユニット”と銘打って活動していますが、そもそも皆さんはこの“廃墟系”という言葉を、どのように定義して用いているのでしょうか?

koshi まず、僕らの音楽を一言で表すなら“虚無感と情動”、つまりは虚無的な部分とエモ―ショナルな部分の両方が備わっている音楽で、ほかにも例えば“ノスタルジーと未来”や“ネイチャーとSF”、色んな二面性が常に内在しているのがcadodeの音楽の世界観なんですね。なおかつ僕ら(koshiとeba)は元々、廃墟好きという接点があって出会ったのですが、我々がなぜ廃墟に惹かれるかというと、そこには人の管理から放棄されて自然に飲み込まれたことによる“過去”と“現在”、さらには「僕たちのいる世界も将来はこうなるんだ」という“未来”すらも見えてくる、その“過去”“現在”“未来”の時空間が全部内包されていることに美しさを感じるんです。

eba そう。たしかにあった過去の営みみたいなものが、自然に飲み込まれているところが、自分が廃墟を好きな理由なんですけど、この感覚を言語化するのは難しいんですよね。ただ、cadodeの楽曲はどれもノスタルジーが感じられると思うんですけど、サウンド感は新しいじゃないですか。それは“過去”と“現在”と“未来”が入り混じっているということだと思うんですよ。

koshi かつ、廃墟というのは諸行無常がある場だと思うんですね。バブルの時期に建てられた建物が、打ち捨てられて、全てが自然に飲み込まれていく。それってすごく虚しいじゃないですか。でも、その諸行無常の切なさ、美しさに僕らは心を動かされて、エモーショナルになる。それが“虚無感と情動”ということなんですね。“廃墟系”というのはそういうことなんですけど……。

eba 説明が長すぎでしょ(笑)。

――でも皆さんの“廃墟”の捉え方と、cadodeの音楽性とのリンクがわかりやすく理解できました。個人的にも、cadodeの音楽にはそういった二面性や一言で言い表すことのできない感情を感じていたので。

koshi ただ、僕らはいいんですけど、みんなにわかりやすく聴いてもらうにはどうすればいいか、ずっと頭を悩ませていて(苦笑)。“廃墟系”というのも、実際に廃墟でやっているわけではなく、精神的な意味で二面性のあるポップスをやっている、という話なんですよね。

――“廃墟系”と聞くと、ゴスっぽい音楽をやってそうなイメージもありますものね。

koshi そうなんですよ。ただ、今のところ“廃墟系”以上に良いワードが思いついていないので、これからもこの説明を繰り返しするしかないんだろうなと(笑)。

eba だから“廃墟”と聞くとおどろおどろしい音楽をやっているイメージを僕らが更新していければいいなと思っていて。「廃墟というのは美しいものなんだよ」っていう。cadodeの活動を通して廃墟の概念を変えてしまいたいですね。

――“廃墟”は“過去”と“現在”と“未来”が交差する場所という意味では、そこから色んな物語を汲み取ることもできるわけじゃないですか。そういった廃墟から想像される物語性のようなものも、cadodeのクリエイティブのキーになっている?

koshi それでいうと僕らは“セカイ系”と呼ばれる作品に影響されていて、実際に僕らの音楽は結構“セカイ系”だと思うんですよ。ラジオ番組のタイトルも「SLICE OF SEKAI」ですし。“セカイ系”は廃墟的な物語を綴る部分があると思うんですね。でも“セカイ系ポップユニット”と名乗るには至っていないっていう。なんで名乗れないんですかね、僕ら?

eba “セカイ系警察”を恐れてるからじゃない?(笑)。まあ“セカイ系”にしてもニッチな言葉だから、結局伝わりにくいっていう。わかる人にはすぐわかる単語なんだけど。

koshi そうなんですよね。でも、言い換えるなら“セカイ系”でもあると思いますね、僕らは。

――“セカイ系”のどういった部分に影響を受けて、それが音楽やクリエイティブに還元されていると思いますか?

koshi 僕らの音楽そのものが多大な影響を受けている気がしますね。もちろん僕らの好きなものがたまたま“セカイ系”だったということなんですけど。例えば、僕は麻枝 准さんの作品に触れて育ってきたし、『エヴァ(新世紀エヴァンゲリオン)』や「最終兵器彼女」といった、今思えば“セカイ系”と呼ばれるものを通ってきていて。自分で言うのもなんですけど、歌詞は明らかに影響を受けていると思います。

eba 自分も秋山瑞人さんが書かれた「イリヤの空、UFOの夏」という作品にめちゃくちゃ影響を受けていて。無意識にですがずっと「イリヤ」を音楽で表そうとしているところがあるのかもしれません。自分が作る音楽にノスタルジーが出ているのは、結局のところ、僕が「イリヤの空、UFOの夏」を好きだからというのも大きいと思います。

――言われてみたら「イリヤの空、UFOの夏」で描かれているような情景、地方都市や夏の景色は、cadodeの音楽ともリンクするような気がします。

eba 「リメンバー」(2019年)という楽曲は本当にピンポイントで、イリヤ(伊里野加奈)と主人公の男の子(浅羽直之)がマイムマイムを踊るシーンをイメージして作ったんですよ。文化祭には間に合わなかったけどブラックマンタに乗りながら踊るイリヤ(伊里野加奈)と主人公の画が美しくて、切なくて。そういう部分で影響を受けているし、ほかの曲にも影響が出ているかもしれないです。

――「リメンバー」で、koshiさんと女性シンガーのMelanieさんがデュエットしているのは、そのイメージがあったからなんですね。

eba そうです。“きみ”と“僕”の“きみ”をMelanieさんにお願いして。だから、あの曲は一番わかりやすく“セカイ系”な感じですね。

koshi やっぱりヒロインは必要だねっていう。「ワンダー」(2020年)も結構“セカイ系”ですよね。あの曲は、僕が“セカイ系”にどっぷり浸かっていた頃、高校生くらいのときに書いた小説のプロットが元になっていて。今思えば「こいつ、ずっとセカイ系好きだな」って自分でも思いますね(笑)。

eba cadodeの楽曲のタイトルに“夏”に関するワードがよく出てくるのも“セカイ系”に繋がっていると思います。これは無意識なんですけど、僕らが曲を作ると、大体舞台が夏になるんですよね。「イリヤ」もそうだし、みんな夏に捉われながら生きている感じなので。

koshi 僕たちは今、青春をやり直している感じがしていて。結局、人生というものは青春に象徴されるし、青春は何に象徴されるかというと夏だと思うんです。だから、僕たちは夏に捉われていると思うんですよね。

――ちなみに谷原さんも“セカイ系”と呼ばれる作品は好きですか?

谷原 亮 僕は正直、“セカイ系”を意識したことはあまりなくて。でも、“夏”や“きみ”がいる作品は結構やってきましたし、まあ好きなんでしょうね。

koshi “やってきた”というのはゲームってことですよね?

谷原 そうそう。だからデモを聴かせてもらったときも、「ああ、これはあのときのあの感じね、めっちゃ良いじゃん」ってなるんですよね。言葉にはできない感覚ですけど(笑)。

koshi それはcadodeで最初に発表した「Unique」(2018年)のときからですね。

――三人が共通して影響を受けた作品はありますか?

谷原 そういえば、あまりそういう話をしたことないですね。なんとなくは共有しているんですけど、ことさら挙げることはないので。「イリヤ」はもちろんみんな好きだし。

koshi 僕だけ年が離れていて、7歳年下なんですよね。とはいえ好きなものは一緒で。「最終兵器彼女」とかは本来、僕は世代じゃないんですけど、そこはもう基礎教養なので(笑)。

eba 『planetarian ~ちいさなほしのゆめ~』もみんな好きだよね。“セカイ系”ではないですけど、『NHKにようこそ!』も大好きですね。原作とマンガで内容が違ったりして。

koshi 僕は麻枝 准さんが好きなんですけど、多分、世代的には二人のほうがハマった世代だと思うんですよね。『AIR』とかも……僕の世代ではないですよね?

eba谷原 『AIR』は俺ら(の世代)だよ!

相性バッチリの『サマータイムレンダ』との縁が生んだ「回夏」

――これまでのお話を聞いて改めて感じましたが、cadodeの音楽性と今回のTVアニメ『サマータイムレンダ』のタイアップは、あまりにもピッタリすぎますよね。

eba 僕らもそう思いました(笑)。だから打ち合わせでも、(渡辺 歩)監督からは「好きにやってください」と言っていただけて。あるとすれば、EDテーマということで、イントロがアニメ本編に被る場合があると思うので、そこは意識してほしい、というくらいでしたね。監督は「(作品に)合い過ぎなので、既存の楽曲でも大丈夫」くらいのことをおっしゃってくれて。自然体で作れたので、本当にありがたいタイアップでした。

koshi 原作の田中(靖規)先生にも一発でOKをいただけたのは、元々原作を読んでいた身としてもすごく嬉しかったですね。僕は田中先生の作品を最初の読み切りの頃から読んでいて、『サマータイムレンダ』も単純に好きだったので、(タイアップの)お話を聞いたときは「全力でやります!」という感じでした。

――『サマータイムレンダ』は和歌山の離島を舞台にした、いわゆる“ループもの”のサスペンス作品ですが、どんな部分に魅力を感じますか?

koshi もちろん田舎を舞台にした、ノスタルジーなSFという部分はcadodeそのままなので、我々がこの作品を好きというのは当然なのですが(笑)、僕はその中でも物語の緻密さとキャラのかわいさが特に好きですね。田中先生のゲーム好きの部分も出ていて。

eba 僕も同じくですね。ノスタルジーや違和感がcadodeにぴったりだし、“ループもの”のサスペンスという部分では、田中ロミオさんの「CROSS†CHANNEL」を思い出したりもするし。あの頃のあの感じを思い出してすごくグッときました。“僕らの夏”って感じがしますね(笑)。

谷原 指示代名詞だらけだけど、わかっちゃうんだよね(笑)。

――たしかに2000年代初頭のギャルゲーっぽさがありますよね。

eba ありますあります。そこもスッと入ることができたポイントですね。

koshi きっと田中先生も好きなんだと思うんですよね。

谷原 私も基本的に一緒ですけど、最初は“夏”と“女の子”なので「ボーイミーツガールが始まるのかな?」とミスリードさせておいて、そこからどんどんお話が転がっていくのが面白いですよね。それと人間関係の部分も面白くて、みんな幸せになってほしいなと思いながら観てしまいます。「(小舟)澪ちゃんがんばれ!」みたいな(笑)。

――女性キャラも魅力的ですものね。ちなみに、皆さんの推しキャラは?

eba 僕は妹(小舟 澪)……だったんですけど、結局は(小舟)潮かな。僕、そういう体質なんですよ。最初は妹とかサブキャラのことが好きなんですけど、最終的にはやっぱりメインヒロインが最高ってなるんです(笑)。

koshi トゥルーエンドでやられちゃうタイプですよね(笑)。僕は“「ヒロインは主人公の嫁」で「僕は主人公ではない」”概念の持ち主なので(笑)、(南方)ひづるさんが好きです。

谷原 僕は澪ちゃん。負けヒロイン的なポジションの子が好きなんですよ(笑)。

eba 褐色という意味だと『ラブひな』で言うバナナ食べてる子(カオラ・スゥ)だよね。俺もあの子は好き。

koshi 今の若い人に『ラブひな』の話をして伝わる?(笑)。

――推しキャラに被りがなくて良かったです(笑)。改めて楽曲制作の話に戻ると、今回のEDテーマ「回夏」はどんなことを意識して制作しましたか?

eba “ループもの”を意識した音や、作中にモザイクが出てくるのに合わせて違和感の残る音を入れたり、作品の特性みたいなものは、アレンジにネタとして入れてはいますけど、基本的にはいつも通りのスタンスで作りました。

koshi でも、逆にいうと、あの美しさのなかに少し違和感を入れる感じは、それこそ普段のcadodeそのままなんですよね。タイアップではありますが、僕らの曲としてもなおさら違和感がないです。

――「回夏」もそうですが、cadodeの楽曲には、様々な声の素材をカットアップして散りばめていることが多いですよね。あの“声”はサウンドモチーフとして大切にしている部分なのでしょうか?

eba 子供の声だったり、アフリカの部族の踊りっぽい声だったり、「ここではないどこか」みたいなものを表すときに、どこの国のものかわからない言葉を入れるのが一番表しやすいのかなと思っていて。シンプルに僕がそういう音が好きというのもあるし、今まで作家としてはあまりやったことのないアプローチというのもあるし、色んな意味が重なっている、cadodeにとってはだいぶ重要なモチーフだと思っています。

――歌詞はkoshiさんが書かれていますが、どの程度、作品のことを意識して書かれたのでしょうか。

koshi あまり意識せず書いても問題なく『サマータイムレンダ』の曲になるだろうとは思いつつ、僕の原風景と、『サマータイムレンダ』で実際に描かれている情景に対して、どれくらい合わせるか、もしくはあえてずらすか、そのバランスには悩みました。僕の中では、今回はcadodeが今までやってきたことのまとめのような曲にもなるかなと感じていて。今まではcadodeという基盤があったうえで、そこにもう1つテーマを付ける考え方で作っていたのですが、今回は最初から『サマータイムレンダ』というテーマが用意されていたから、もっと広い面で歌詞を書こうと思って。それがサビの部分ですね。

――なかでも“一度きりだから僕らは変わりたい”というフレーズが印象的です。

koshi はい。これは僕たちのことでもあるし、『サマータイムレンダ』のことも言っています。『サマータイムレンダ』のお話は、時間がループはしていますけど、あの世界のみんなからすると、あの夏は一度きりで。だからこそこの歌詞だし、さっきも言いましたけど、僕は“人生”や“青春”は“夏”に象徴されると思うので、人生は一度きりだということを言いたくて、こういう歌詞になりました。

――“青春をやり直したい”というcadodeのテーマにも当てはまりますしね。それとこの歌詞、1番は現在進行形、2番は過去形で書かれているところも気になりました。

koshi これには仕掛けがあって、すべての物語を観終わったあとに改めて聴くと、違った解釈ができる曲にできればいいなと思って作りました。ネタバレになるので詳しくは話せないですが(笑)、最終話を観終わったあとにもう一度聴いてほしいですね。

――koshiさんの歌も素敵で、懐かしさもあるし、新しさもある、独特の魅力を感じました。ほかのお二人から見てkoshiさんの歌声にはどんな魅力を感じますか?

eba レンジが広すぎないのが逆に良いのかなと思います。今どきはめっちゃハイトーンの人が多いですけど、そうではないことが逆に個性になっていて。ほかであまり聴いたことがない声質というのもデカいですね。あと、素人なのが逆にいいのかも、変に歌ってきていないので。

谷原 僕もebaくんに紹介してもらったときに「良いね」と思った頃から(印象が)更新されていないところがあって。要するに意識していない、プロっぽくない声というのがいいんでしょうね。わざとらしくない感じというか。あとは単純に響き、聴き心地が良い。

koshi 僕自身が、自分に酔っている感じの歌い方をしている人があまり得意ではなくて。ただ、日本語が綺麗に聴こえる歌い方は意識していますね。

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