作詞・作曲を手がけた全4曲で見つめ直した自分自身の感情、思考――。楠木ともり、2nd EP「Forced Shutdown」リリースインタビュー

自分自身を見失わないための“強制終了”――「Forced Shutdown」

――今回のEP「Forced Shutdown」は、収録されている4曲すべてが楠木さんの作詞・作曲ということで、いわばシンガーソングライターとしての側面がより強い作品になりました。制作するにあたって、まずどんな構想がありましたか?

楠木 表題曲の「Forced Shutdown」以外の3曲は、数年前に制作した楽曲をリアレンジしたものなんです。EPを作る段階ではテーマ性を設ける意識はあまりなくて、自分でも「どんなEPになるのかな?」と楽しみにしながら作りました。全曲が揃ってマスタリングに立ち会ったとき、4曲とも曲調はバラバラで歌い方のテイストも違うのですが、通して聴くと共通項のようなものを感じて。1本の映画を観終えたような感覚がありました。一人の人間を、表層的な部分ではなく、より深い部分まで読み解いた感じというか。

――それは今作が全曲ご自身で作詞・作曲した作品ということも大きいのではないでしょうか。

楠木 私もそう思います。今回、意識はしていなかったんですけど、結果的に、自分自身のコンプレックスや息苦しさみたいなものを見つめ直す、というテーマが強く出ている気がするんです。それは私が抱えている考え方に通じる部分だと思いますし、曲を作るときは普段ニュースを見て感じたことや、友達から聞いた話も踏まえて書くので。何もかもが全部自分の気持ちだけで出来ているわけではないのですが、根本的な部分では私らしさが出てくるからこその共通項なんだと思います。

――それと4曲に共通して感じたのは、どれも表現の仕方がバチバチに強いと言いますか、思いきり振り切っているということで。自分はそこに痺れました。

楠木 ありがとうございます! 私も中途半端にならず、全部が気持ちとしてしっかり振り切って出ている気がします。

――その振り切った表現というのは、ご自身としても曲を作るうえで大切にしていることですか?

楠木 私は普段過ごしていて、何かわからないけどもやもやしたり、すっきりしないことがあったときに、気持ちを整理するために曲を作ることが多いんです。自分の中で漠然としている部分を発散する形で曲作りをしているからこそ、結果的に感情が表に出ていたり、自分の考えがはっきり出ている曲になるんだと思います。

――ここからは収録曲について詳しく聞いていきます。表題曲の「Forced Shutdown」は、どんなコンセプトで制作された楽曲ですか?

楠木 この曲は今回のEPのために書き下ろした楽曲で、書き始めたのはコロナの影響で自粛期間に入った頃のことでした。この曲は、日々感じることを少しずつ文字にしてブラッシュアップすることで曲にしていったんです。ですので、書いている期間が長かったですし、書き方もいつもと違って、思っていることを断片的に集めてまとめたので。それが、この曲のまとまりがないように聴こえる曲調に通じていると思います。

――その日々感じていたことというのは?

楠木 ここ最近はSNSやリモートで誰かと繋がることが増えて、世間的にはそれがポジティブに捉えられていたと思うし、私ももちろんそう感じていました。それと同時に、人と気軽に繋がることができるようになったぶん、自分と向き合う時間が減って。だんだん自分自身のことが不透明でわからなくなってきた部分もあったんです。そんなときに書いたのがこの曲で。

――なるほど。

楠木 「Forced Shutdown」というタイトルは“強制終了”という意味で、本来、“閉ざす”というのはネガティブな印象がある言葉だと思うんですけど。自分を守るため、見つけるためには、一度外からの情報を閉ざすのも選択肢としてありなんじゃないかなと。

――自衛のための「Forced Shutdown」というわけですね。“強制終了”と言う言葉には拒絶的な意味合いを感じますが、それをポジティブなものとして扱っているのは、意外性があって面白いです。

楠木 例えば、私は何か悩みがあると周りに相談することが多いのですが、色んな人に相談すると色んな意見が出てきて。結局何を大事にしていたのかがわからなくなることがあるんです。それに近い感覚なのかと思っていて。“強制終了”を行うことで、一度区切りをつけて、そこからまた新たな自分としてやり直す、というポジティブなイメージでこのタイトルにしました。私が書く曲は、ネガティブで始まっても最終的にはポジティブな終わり方をするものが多いのですが、この曲はポジティブにならないまま終わるんです。聴いたことでまた前向きな気持ちになれたらいいな、という想いもあります。

――自分の気持ちを一旦リセットしてここからまた始める、その区切りを宣言するような楽曲だと。

楠木 歌詞もあえてきつめな言葉を選びました。“私はいつ君を傷つけたの?”や“不細工な色眼鏡”など。自分が苦しいときに、それ以上沈まないように怒りでごまかすことって誰しもあると思うんです。そういう、悲しいけど怒っているとか、辛いけど笑っているだとか、一人の人間の中にある矛盾した感情を曲として表現したくて。アレンジも重永(亮介)さんは「カオティック」とおっしゃっていましたけど、先の展開が予想できないようなものにしていただいたのが、曲の主人公の心情変化に上手くフィットして、世界観のある楽曲になりました。

――歌詞や曲調を含め、すごく尖った表現だったので、初めてこの曲を聴いたとき、驚いたと同時にすごくワクワクしたんですよ。

楠木 ありがとうございます。言葉として「残る」というのはいいことだと思うので。ほかにもこの曲は、SNSでは誰かに見られている自覚をあまりもたずに、自分の気持ちをさらけ出してしまう部分にも触れていて。周りを気にしない気持ちの強さを表現してみました。

――そういった言葉にしにくい感情を形にするのは挑戦的ですし、かなり深い部分に踏み込んだ表現だと思います。先ほど「ハミダシモノ」を発表したときに、声優としての自分を知る人からは意外に思われたとおっしゃっていましたが、それでもなお踏み込んでいくのは、なぜですか?

楠木 私は何か1つのことに対する気持ちが良くも悪くも人より強いタイプかなと思うのですが。アーティストとして自己表現するときには、そういった強い気持ちを出してもいいのかなと思っていて。そこも私の個性だし、上手く向き合っていけば、自分の良さにもなると思います。同じようにみんな表には出さないそれぞれの感情があるとしたら、、そこに寄り添える曲ってあまりないかもと思って。私は誰かの気持ちに寄り添える曲を作るのが目標なので、深層部分にも触れられるような曲も作りたいと思います。

――「Forced Shutdown」はサウンド面でも、イントロのボーカルエディットを皮切りに先の読めない工夫が満載ですが、楽曲の構成自体が変拍子を多用したポストロック的な作りで、かなりアグレッシブですよね。

楠木 この曲の歌詞は感情が色々なところにいくので、変拍子にすれば効果的に伝えられるんじゃないかと思って。楽曲としてまとまりはありつつ、先の展開を裏切ってくるような要素もあって、私としては良いバランスの変拍子に出来たなと思っています。

――特にサビの“君が笑ってくれれば それでよかったのに”の箇所は、7拍子+8拍子になっていますが、その絶妙な違和感がキャッチーさに転換されていて耳に残りました。こういう変拍子の楽曲、自分で考えて作れるものなんですか?

楠木 私も変拍子の曲をよく聴くんですけど、そのときに「なんでこの変拍子は違和感があるのにしっくりくるんだろう?」と考えたりします。変拍子って学校の音楽の授業ではあまり習わないので、新鮮な感覚で書くことができるし、パズルみたいに試行錯誤しながら組み立てて作れるのが面白くて。私は楽しんで作っています。

――ちなみに、歌詞カードに表記はあるけど歌われない“「   」”の意味は?

楠木 自分を閉ざす話ではあるんですけど、後悔もありつつ、周りと関わることを諦めていない歌詞なので、何かしら第三者目線の要素が欲しいと思ったんです。でもそれはきっと私が答えを出すべきことではないし、聴く人によって答えが変わってくるものだと思うので、ここにカギカッコを入れました。この“「   」”の前の歌詞はすべて質問形になっているのですが、その問いかけに対してここに何が入るのかを考えるだけでも、この曲の幅が広がると思いますし、私自身も「聴いてくれる方はここに何を入れるのかな?」とワクワクしながら入れました。実は1回消したんですけど、色々話し合った結果、復活させました。

――受け手にこの曲の解釈を委ねること自体を表現した部分だったんですね。

楠木 今回のEPも自分でライナーノーツを書いているのですが、ファンの方から「この曲はどういう意味なんですか?」という質問をいただくことが多くて。もちろん自分の中には「こういう意図で書いた」という正解はありますけど、それを押し付けたくはないし、聴く人によって全然違う受け取り方をしてもらっていいと思っているので、想像する余白を残しておきたかったんです。

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