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2020.02.06

fhánaライブツアー“where you are Tour 2019” 「divine」公演レポート

fhánaライブツアー“where you are Tour 2019” 「divine」公演レポート

昨年11月より大阪・名古屋・東京を巡ったfhánaのライブツアー“where you are Tour 2019”が、12月15日の舞浜アンフィシアター公演で終幕を迎えた。全4公演のそれぞれに「fade」「illuminate」「narrative」「divine」というテーマを設け、各公演ごとのテーマに沿った内容のライブを行うという、バンドにとって初の試みに挑戦した今回のツアー。筆者は残念ながら一公演のみしか観覧していないので、公演ごとの変化やその試みに込められた意図について詳しく言及することはできないが、「divine」というテーマを冠した最終公演を観るに、彼らが織り成す物語は次のフェイズに進んだように思う。

この日の会場となった舞浜アンフィシアターは、半円形のステージとそれを囲むように配された客席が特別感を感じさせる、通常のライブハウスやホールとはまた違った趣きのライブ体験ができる場所。ホールには開演前からどこかしら厳かなムードが漂っている。やがてスクリーンに今回のツアータイトルが映し出され、ストリングスの優美なSEに導かれて佐藤純一、yuxuki waga、kevin mitsunaga、towanaのメンバー4人と、サポートの御供信弘(ベース)、河村吉宏(ドラム)がステージに登場。歓声に沸く会場がやがて静まり返り、ピンと張り詰めた空気になると、スクリーンに「divine」の文字が浮かび上がり、towanaが「divine intervention」の冒頭の一節をアカペラで歌い始める。静謐な会場に朗々と響き渡るのは、まさに「divine(=神聖な)」な歌声。そこから音源でもおなじみのエレクトリックなイントロが飛び出し、バンドの演奏とともに楽曲がスタート。スクリーンにはデジタルな模様がチカチカと走るなか、昂揚感溢れるパフォーマンスが繰り広げられ、観客も一気に総立ちになって盛り上がる。

2曲目に披露されたのは「The Color to Gray World」。ここでSTAND UP! ORCHESTRAのメンバーからなるカルテット(ヴァイオリン×2、ヴィオラ、チェロ)が演奏に加わる。fhánaの単独公演にストリングス隊が参加するのは今回のツアーの東京公演が初(前日を含む舞浜アンフィシアターの2公演のみに参加)。彼らの音源には以前から生ストリングスを導入した楽曲が多くあるし、特に最新シングル「僕を見つけて」はストリングスがサウンドの肝になっていたこともあり、今回のカルテットとの共演は新たな試みであると同時に、自然な流れで生まれたコラボと言えるだろう。実際、今回の公演では要所要所で生のストリングスが加わることにより、楽曲の輪郭や奥行きがより鮮明に表現されていた。

続く人気曲「星屑のインターリュード」でも生の弦がいつも以上の躍動感を演出。kevinの楽しそうな動きに合わせてオーディエンスも飛び跳ねながら楽しむ。ここで佐藤による挨拶とMCを挿み、彼の「次は〈失くしたものは取り戻せないけど、次の目的地に行くんだ〉という曲を演奏します」という言葉に次いで、「It’s a Popular Song」を披露。kevinのグロッケンと生ストリングスの絡みがロマンチックなムードを増幅させ、オレンジや紺へと変わりゆく照明が黄昏どきのような雰囲気を醸すなか、towanaがしっとりとした美声を響かせる。次の「虹を編めたら」でも七色のライト演出が美しい光景を生み、視覚でもたっぷりと楽しませる構成だ。

ここでカルテットは一旦退場。佐藤は結成から8年、デビュー6年目を迎えたfhánaの物語について、「実はkevinの成長物語なんじゃないか?」と冗談めかして語り始める。金髪、鉄琴、蝶ネクタイ……今や彼のトレードマークになっているものは大体が佐藤の提案によって始めたものらしく、彼は「kevinをプロデュースしている感じ」と語って会場の笑いを誘う。現在はダンサーとしてもライブで欠かせない役割を担っているkevinだが、近年、そこからさらに新しく加わったのがラッパーとしての顔。kevinが「佐藤さんに開いてもらった僕の新しい扉、ぜひ聴いてください!」と語るや否や、マイクを握ってステージ前面へと躍り出し、彼とtowanaが共同で作詞したラップソング「Unplugged」を披露。ゆったりとしたリズムに合わせたラップのスキルは二人とも堂に入ったもの。サビでは二人でツアーグッズの旗を左右にゆらゆらと揺らせて盛り上げる。最後はtowanaとkevinがステージ中央で背中合わせに立って腕組みし、オールドスクールなB-BOY風のポーズをバッチリと決めてみせていた。

そこからタテ乗りのリズムで盛り上げた切なくも爽快な「lyrical sentence」を経て、towana作詞の都会的なグルーヴが洒脱なナンバー「ユーレカ」へ。2018年発表のシングル「わたしのための物語 ~My Uncompleted Story~」のカップリングに収録されたこの曲から作詞も手がけるようになったtowana。そのどこかやるせなくもこそばゆい感傷を滲ませた詞世界は、それまで林英樹が一貫して書いてきたfhánaの歌詞としっかりリンクしつつ、新たな広がりを感じさせるものだった。そんな彼女の才能が、fhánaの物語を新たな方向に向かわせていることに、この後の楽曲で気づかされることになる。

ライブは続いてyuxuki作曲の清々しいまでにストレートなロックチューン「真っ白」に突入。ここでそれまでキーボードに専念していた佐藤がギターを手にし、yuxukiとのツインギター体制でロッキンに攻めまくる。特にyuxukiのソロパートは、真っ白な照明が激しく明滅する効果も相まって、何もかもを吹き飛ばしてしまうような衝動と激情が感じられた。続けて披露された「Do you realize?」も歪んだギターとダイナミックなリズム隊が暴れまくる、目の覚めるような一撃。fhánaのライブバンドとしての一面を強く感じ取れるパートだった。

その後のMCで佐藤は開口一番「いやー、楽しい!」と笑みをこぼし、他のメンバーたちも充実感を味わっている様子。ここで次の曲は写真撮影OKというアナウンスがされ、オーディエンスは喜んでスマホを手にする。そして歌われた楽曲は、佐藤がTVアニメ『ナカノヒトゲノム【実況中】』の挿入歌として作曲したナンバー「Code “Genius” ?」のセルフカバー。原曲は亜咲花が歌唱を担当、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)が作詞を手がけていたが、towanaが歌ったのは英語詞バージョン。推進力のある4つ打ちのリズムと煌びやかなライト演出が昂揚感を生むなか、客席は思い思いのタイミングで写真を撮影したり、楽曲に聴き入ったりしていた。

その「Code “Genius” ? (English ver.)」から繋がるように始まったのが、fhánaの最初期からのレパートリーである「光舞う冬の日に」。まさしく冬の空のような透明感を帯びたメロディとスケール感を感じさせる音像が広々とした景色を描き出す。サビでtowanaが三角+上下に指を切る仕草に倣ってファンも一緒に指を動かし、ステージと客席の間に不思議な連帯感が生まれる。最後は佐藤の美しいピアノソロで締めくくられた。

そして今度はtowanaがMCを担当。TVアニメ『ナカノヒトゲノム【実況中】』の挿入歌にして、今回のツアータイトルにもなっているfhánaの最新曲「where you are」について語り始める。最新シングルの表題曲「僕を見つけて」をレコーディングしていた時期に、佐藤から「大切な曲ができたので歌詞をつけてほしい」と請われて、towanaが歌詞を書き下ろしたというこの楽曲。林英樹が作詞した「僕を見つけて」は“永遠の別れ”や“再会の願い”といった想いをテーマにしたものだったが、「where you are」はある意味、それに連なるようなテーマになっていることに気づかされる。彼女は「あなたはどこにいるんだろう? 私の居場所はどこなんだろう? それでも私はこの場所から、あなたのことを思っている。そんな想いを込めたこの曲を聴いてください」と語り、「where you are」を歌い始める。再びストリングス隊が合流し、深い陰影を帯びた抒情的なサウンドが紡がれるなか、towanaは凛々しくも張り詰めたような面持ちで、遠くの誰かに届けるように精一杯の歌声を届ける。

その渾身のパフォーマンスの後、towanaは一旦退場し、バンドは続いて同じくTVアニメ『ナカノヒトゲノム【実況中】』の挿入歌として発表した「願い事」をインストバージョンで演奏(ちなみに歌ありバージョンの歌詞はtowanaが書いている)。佐藤のピアノソロから始まり、そこからストリングスとバンドサウンドが加わって、まるですべての願い事を祝福するような、優しく華麗な音が会場いっぱいに溢れる。そしてtowanaが再びステージに戻ってきて、fhána 5th Anniversary BEST ALBUM『STORIES』より彼女が作詞を担当した表題曲「STORIES」を披露。アンセミックなメロディに込めて、どこまでも続いていく物語の行く末を想う歌。誰もが誰かを求めて、出会いと別れを繰り返しながら、自分の道を進んでいく――そんな情景とストーリーが、「where you are」から「STORIES」まで続いたこのパートから浮かんだ気がした。

ここからライブは一気にラストスパートへ。切なくもどこか甘酸っぱい空気を纏った「Relief」で、会場に集まった個人個人に救済の手を差し伸べると(towanaが身を揺らしながらステージ上を気持ちよさそうに歩く姿も印象的だった)、続いて今や誰もが愛してやまない彼らの代表曲「青空のラプソディ」へ。towanaの「元気に楽しんでくださーい!」という声を合図にオーディエンスは熱狂し、kevinもステージ前に飛び出てクラップを煽ったり、ダンスしたりと大活躍。「青空のラプソディ」が生み出す、どこまでも晴れやかで笑顔に溢れたこの光景は、fhánaがいる限りこれからもずっと失われることはないだろう。

そこから一拍置いて始まったのが「Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~」。その希望に満ちた歌とサウンドが、世界を明るく照らし出す。続いて佐藤はMCで、次に披露するのは、バンドがたくさんの別れを経験し、大きな変化の時を迎えるなかで形作られた楽曲と紹介。「いなくなった人にも届くことを祈って演奏したいと思います」「全てのクリエイターと、その作品を愛する全ての皆さんにこの曲を捧げます」との言葉に次いで、最新シングルの表題曲「僕を見つけて」を奏で始める。夕景のようなオレンジ色の照明がマジックアワーのような景色を演出するなか、towanaの歌声がある種のレクイエムのように会場に響き渡る。そしてこの日のライブで生ストリングスが最大の効果を発揮したのが本楽曲。後半で急展開するドラマティックな展開を含め、曲そのものが持つ何かを強く希求するような力、計り知れない想いのようなものが、生弦の豊饒かつ饒舌な響きによって、より生々しく伝わってきたように思う。終盤のtowanaの願いのような歌声、プレイヤー陣によるカオティックな演奏による終幕、メンバー全員がステージを去った後も延々と鳴り続けるギターノイズ――観た者全ての心に大きな爪あとを残す、素晴らしいパフォーマンスだったように思う。

そしてアンコール。ツアーTシャツやそれをアレンジした衣装に着替えたメンバーがステージに戻ってきて、まず演奏したのは「きみは帰る場所」。佐藤がGothic×Luckに提供した楽曲のセルフカバーで、2019年の“Animelo Summer Live”出演時にも披露された、fhánaのファンにとっても今やおなじみのナンバーだ。林英樹が作詞した歌詞の内容は“別れ”と“再会への願い”を強く感じさせるもので、元々はTVアニメ『けものフレンズ2』のEDテーマとして制作されたものとはいえ、見方によっては「僕を見つけて」との繋がりも感じられる。その後のMCで佐藤は「きみは帰る場所」について、「この曲があったから「僕を見つけて」が生まれたし、「僕を見つけて」があったから「where you are」が生まれたし、こういう風に繋がっていってるんですね」と説明。彼らの物語が楽曲を越えて結び付いていることが伝わってくる。

そして佐藤は「次に演奏する曲も大切な曲です」と歌詞の一節“希望が闇の中に それでも生まれるのなら あと少しあと少しだけ その灯を絶やさないでいて”を暗唱して「World Atlas」の演奏へ。生ストリングスの優雅なイントロから、ソウルフルなピアノリフに導かれて、towanaは新たな旅の始まりを高らかと歌い上げる。サビではフラッグを左右に振って、客席もそれに応える。ラスサビではkevinもマイクを持ち、ステージ前に出てきて歌唱。会場全体が幸福感に包まれる。

その後、メンバー紹介を挿み、本公演の模様がMUSIC ON! TV(エムオン!)で3月に独占初放送されることを発表。さらに2月29日公開の劇場版「SHIROBAKO」の主題歌をfhánaが担当することを改めて報告する。しかもその新曲「星をあつめて」を、ピアノと歌だけで1コーラスのみ披露することに。佐藤曰くDメロの歌詞を特に聴いてほしいとのことで、Dメロ部分から演奏を始めるという変則的な形での演奏。しかしながら、そうすることで楽曲に込められた「モノづくり」に対する気持ちがはっきりと伝わってくる、ライブならではの特別なバージョンとなっていた。

さらに佐藤は「『World Atlas』に続く(fhánaの)4枚目のアルバムを作りたいと思っています」と語ってファンを喜ばせる。だがその件については佐藤以外のメンバーも初耳だったようで、yuxukiとkevinは驚き顔。ひとまずは「星をあつめて」の完成を楽しみにしつつ、気長に待つのが良さそうだ。

そしてアンコールの最後に歌われたのは、1stアルバム『Outside of Melancholy』収録のナンバー「white light」。元々towanaがゲストメンバーとして参加していたインディーズ時代からあった曲で、前日の舞浜アンフィシアター1日目公演では1曲目に歌われていた。MCで佐藤が引用したこの曲の歌いだしの歌詞“長い旅の果て ここまで辿り着いた 「この僕」に 同じ景色はまるで違う光を まとって見えた”は、この日のライブ(あるいはこれまでのツアーの各公演)という旅を経たからこそ、より重みを伴うフレーズになる。例え楽曲自体は同じであっても、ライブの流れや演出によって見え方が変化するもの。1日目の1曲目で歌われた「white light」と、2日目のアンコールラストで歌われた「white light」は、きっと全く違う響きを持っていたことだろう。この日のメンバーたちは真っ白な光が投影されたスクリーンを背に、ツアーのオーラスに相応しい神々しいまでのパフォーマンスを展開。逆光に照らされて浮かび上がるシルエットたちの甘美な歌声と演奏は、白い光の向こうに美しい景色を描き出す。その「white light」にどんな意味を見出すかは、受け取り手次第。fhánaのライブとは、それぞれがそれぞれの「物語」を見つける場所であり、メンバーやファンを含めた全員の「物語」が交差する場所でもあるのだ。今回のライブではそのことを強く実感したし、そこから生まれる繋がりがこの先どのように広がっていくのか、今後が楽しみでならない。

Text by 北野 創(リスアニ!)

“where you are Tour 2019”「divine」
2019年12月15日(日)舞浜アンフィシアター
<セットリスト>
M1. divine intervention
M2. The Color to Gray World
M3. 星屑のインターリュード
M4. It’s a Popular Song
M5. 虹を編めたら
M6. Unplugged
M7. lyrical sentence
M8. ユーレカ
M9. 真っ白
M10. Do you realize?
M11. Code “Genius” ? (English Ver.)
M12. 光舞う冬の日に
M13. where you are
M14. inst(願い事)
M15. STORIES
M16. Relief
M17. 青空のラプソディ
M18. Outside of Melancholy~憂鬱の向こう側~
M19. 僕を見つけて
EN1. きみは帰る場所
EN2. World Atlas
EN3. 星をあつめて
EN4. white light

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