リスアニ!WEB – アニメ・アニメ音楽のポータルサイト

INTERVIEW

2018.03.28

fhána×ランティス音楽プロデューサー・佐藤純之介『World Atlas』スペシャル座談会

テーマの本質を理解していれば、別のアプローチで近づいても狙いどおりのいいものが出来上がると思うんです

──純之介さんのプロデュースによって可能性を広げてきたfhánaですが、例えばこれまでの作品を振り返って、ターニングポイントになった作品はありますか?

佐藤純一 まず「ケセラセラ」はデビュー曲なのでそこでひとつあって、その次は「divine intervention」(2014年)ですね。それで期待値が上がった勢いで「いつかの、いくつかのきみとのせかい」(2014年)と「星屑のインターリュード」(2014年)を出せた流れもすごく良かったです。「divine」は、ライブでもすごく盛り上がるんですけど、「星屑」でさらにfhánaっぽさみたいなものを強く打ち出せたんじゃないかなと思ってて、それが新鮮な受け入れられ方をしたのがひとつのターニングポイントでした。その次があるとしたら「青空のラプソディ」(2017年)で、今までの音楽性を更新すると同時に広がり的にも節目の作品ではありますね。もちろん全部の曲が大事ではありますけど。

3rdシングル「divine intervention」(2014.01.22)

4thシングル「いつかの、いくつかのきみとのせかい」(2014.04.30)

5thシングル「星屑のインターリュード」(2014.11.05)

10thシングル「青空のラプソディ」【アーティスト盤】(2017.01.25)
レビューはこちら

──今回のニュー・アルバムにも収録されている「青空のラプソディ」は、fhánaのキャリアはもちろん2017年のアニソン・シーンにとっても実りある1曲だったと思います。純之介さんからはこの曲を作るにあたってどんなテーマの提案があったのでしょうか?

佐藤純一 まず、今までのfhánaの殻を破るような曲を、という話しがありましたね。そしてもうひとつ、「踊るMVを作ろう」というのがあったので、音楽性もとにかく吹っ切れてほしいと。最初は電波ソング的な吹っ切れ方も検討していて、「もってけ!セーラーふく」みたいなわちゃわちゃしたのも好きですけど、それをfhánaでやるのも違うし、僕自身のルーツを反映したうえで今のアニソン・シーンにあんまりないタイプの吹っ切れたものを探して行き着いたのがフィリー・ソウルだったんです。J-POPでは少し前から星野 源がやってましたけど、アニソンにはその流れはまだ来てないなあと思って。で、僕的にはフィリー・ソウルというと星野 源よりも小沢健二を思い出す世代なんですね。今までそういう影響をfhánaの曲でストレートに反映したことはなかったので、そこを突き詰めようと思ったのが「青空のラプソディ」なんです。

佐藤純之介 念願の京都アニメーション作品ということで気合いも入ってて(笑)。それでリーダーにお願いしたら、フィリー・ソウル系のが上がってきて「なるほど」なと思って。メロディや歌詞、掛け声が入る感じとかはアニソンっぽいですけれども、実はそれ以外の部分は全然アニソンっぽくないっていうところで手応えを感じましたし、そこで2ndアルバムから3rdアルバムに向けての新しいブレイクスルーができたと思いましたね。今までは「fhánaなりのアニソンを作ろう」と言ってたのが、もはやアニソンというのは後付けでしかないなみたいな。

──純之介さんが提案したテーマに対して自分なりに消化して、全然思ってない形で打ち返すからこそクリエイティブな曲が生まれるわけですね。

佐藤純之介 そういう意味ではオーダーどおりのものが上がってきたことはないですね(笑)。

一同 ハハハハハ(爆笑)。

佐藤純之介 もちろんお互いのイメージを重ねるキャッチボールはつねに行なっていて。僕が「的のこの辺りに来てほしいな」って思ってたら違う場所に来ることは全然あるんですけど(笑)、それも的の中には収まっているので、そのまま進めていくんです。

佐藤純一 あと、例えば「4つ打ちにしよう」とか「速い曲にしよう」というのは表面的なことで、「なぜそうするのか?」という前提がまずありますよね。テーマの本質を理解していれば、別のアプローチで近づいても狙いどおりのいいものが出来上がると思うんです。

佐藤純之介 行く手段が違うみたいな感じだよね(笑)。「新幹線で行ってください」って言ったら飛行機でやって来た。でも、着いた場所は同じみたいな。

11thシングル「ムーンリバー」【アーティスト盤】(2017.04.26)
レビューはこちら

この『世界地図』=『World Atlas』が、旅に出る人の背中を押すガイドとなれば

──純之介さんは今回の3rdアルバムまで一緒に作品を作り上げていくなかで、メンバーの成長や変化を感じた部分はありますか?

佐藤純之介 それは今回のアルバムが明確に証明していることでもあるんですけど、「青空のラプソディ」の時点でリーダーが自分のルーツを持ってきて勝負を賭け、一定の結果を出したことは、僕の中では大きな出来事で。1stアルバム、2ndアルバムは僕からいろいろと提案したものが採用されてたりもするんですけど、3rdアルバムで僕はあまり何もやってないですから(笑)。

──そうなんですか?(笑)。

佐藤純之介 もちろんタイアップ曲に関してはいろいろ相談してやってますけど。今までは僕から発信した大きなアイデアの中からリーダーがチョイスしてたのが、3rdはリーダーが提案してきたものをそのままやってもらったりして。例えば表題曲の「World Atlas」はちょっと跳ねたリズムでモータウンぽかったりするんですけど、今までの僕なら「もうちょっと派手な曲にしとこうよ」とか言ったと思うんですよ(笑)。でも「ラプソディ」を通して新しいジャンルをユーザーに提供する本当に素晴らしいことを達成できたので、もっとリーダーの世界観を尊重したアルバムになればと思って、いつもよりは2歩ぐらい下がって見ていました。

──そうだったんですね。

佐藤純之介 それとこれはメンバーにもよく話してますが、fhánaは今年で5年目なので、ここで1クール目が一旦終了みたいなイメージがあって。fhánaがアニメだとしたら、たぶん次のシングルから2クール目に突入するんだと思うんですよ。なので、このアルバムで一旦手持ちのアイデアをすべて出しきって、素晴らしいものを作ったうえで、次に行きたいという想いがありますね。そういう意味ではプロデューサーとしてはあまり仕事してないアルバムですね(笑)。

──いつも以上にメンバー主導で作った部分が大きいとのことですが、皆さんそういった手応えは感じましたか?

佐藤純一 新録曲についてはそうですね。でも、今回のアルバムはシングル曲が多いので、僕的には結果的にここに辿り着いたという気持ちが強いですね。

一同 (笑)。

佐藤純一 アーティストがアルバムを作る場合、普通は一定期間に集中して作りますけど、『World Atlas』に関しては断続的にシングルを作り続けていたので、その瞬間瞬間の最大限を打ち返していったものをまとめた結果こうなったというか。でも、2018年の年明け以降に考えていることが反映された、ひとまとまりの作品という感じもあります。

yuxuki たしかに佐藤さんの言うとおり、がっつりアルバムに取り組む感じで出来たアルバムではないというか。それこそホントに「calling」を出したときから始まって、特に「ラプソディ」以降やってきたことが詰まったアルバムなんですよ。なので、「作品を作るぞ」という感じのアルバムじゃなくて、足跡が残ったものというか。去年のツアーも「〈World Atlas〉を探す」っていうツアーだったし、いろんな経験を経て、今の自分たちがそれぞれ並んでいるみたいな印象ですかね。

kevin 多分2ndがいちばん「アルバム作るぞ」という意識で作った感じかも。

2ndアルバム『What a Wonderful World Line』(2016.04.27)
レビューはこちら

佐藤純一 アルバム用の新曲もいちばん多かったから。

yuxuki 1stはそのときのがむしゃら感というか、「こういう曲がいいよね」というのが集まった感じなので、また違うんですよね。

佐藤純一 「calling」以降はシングルの表題曲やカップリング曲も含めて、3rdアルバムに向けてイメージしながら作っているんですよ。でも、そのときに計画していたことやイメージしていたものと実際今いる場所は結構違うので、結果として「ここに辿り着いた」みたいな感じですね。「ブレーメンの音楽隊」という童話があるじゃないですか。あれに出てくる動物たちは、ブレーメンという町で音楽隊になるために旅をするんですけど、最終的にはブレーメンに行っていないんですよ。町にも辿り着いてないし、音楽隊にも入っていないんだけど、物語の結末としては別の場所で幸せになるんです。そんな旅路みたいなものを感じましたね(笑)。

佐藤純之介 たしかに前のツアーのときから、「次のアルバムはこんな感じにしよう」って話したこととは違う方向に向いていったりというのは感じてたけど、それが成長なのかなと思って。最初の予定と違うところに行ってることが、客観的に見て間違いだとは全然思わないし、より良いところに行けている認識はありました。僕はそこをバックアップするような提案ができたらと思っていましたね。

佐藤純一 最初の予定が、「fhánaの到達点」という意味での『Wordl Atlas』だったのが、到達点ではなくて本当の旅に出発ための『World Atlas』だったという感じです。僕たち自身も、聴いてくれるみんなも、あるいは世の中だったり、自分にとって居心地の良い場所に引きこもるだけじゃなくて、他者に出会う旅に出ようという感じですね。でも冒険とか修行とか大袈裟なことだけではなくて。旅や旅行に行くとき、ふつうは手ぶらじゃ行かないんで。スマートフォンでGoogleMapだったり旅行先の観光情報を見ながら旅をしますよね。そんなふうにこの『世界地図』=『World Atlas』が、旅に出る人の背中を押すガイドとなれば良いなと思っています。

『World Atlas』【通常盤・配信版】

SHARE

RANKING
ランキング

もっと見る

PAGE TOP